内科の開業医の年収は?勤務医の年収との比較と開業資金についても解説
内科で開業しようと考えている先生に向けて、開業医の年収や、勤務医との比較、開業資金の目安についてお伝えします。
ただし、年収は医院・クリニックによって個人差がかなりあり、開業資金は物件や内装、導入する医療機器などの規模感によって大きく変わってきます。
そのため、あくまで参考までにご覧ください。
医療経済実態調査から見る内科開業医の年収と内訳
内科の開業医の年収については、第22回医療経済実態調査のP350一般診療所(個人・青色申告を含む)で、医業・介護収益から費用を引いた損益差額を年収とすると、2,582.4万円と算出できます。
健康保険組合連合会の健保ニュースによれば、同じく第22回医療経済実態調査での全開業医の平均年収は2,763万円と算出されており、大きな差異はありません。
収益の内訳
第22回医療経済実態調査を元に内科開業医の年間収益の内訳を示すと、医業収益は8,020.1万円、介護収益が34.2万円となり、医業収益が全体の99.6%を占めています。
また、入院診療のうち保険診療の占める割合が97.4%、外来診療のうち保険診療の占める割合が94.5%となっており、収益の大半が保険診療となっています。
経費の内訳
一方で、内科開業医の年間経費は5,471.9万円となっており、異業収益8,020.1万円と介護収益34.2万円から年間経費を引いた差額を内科開業医の年収2,582.4万円としています。
なお医療経済実態調査では、内科開業医の年間経費の内訳は、以下のようになっています。
経費 | 5,471.9万円 |
---|---|
給与費 | 2,041.7万円 |
医薬品費 | 1,377.1万円 |
材料費 | 202.9万円 |
給食用材料費 | 2.3万円 |
委託費 | 271.1万円 |
減価償却費 | 347.0万円 |
その他 | 1230.0万円 |
ここで給与費(人件費)に注目すると、給与費(人件費)は全収益のうち約25.3%となっています。
なお、労働分配率は、人件費のうち、前収益に変動費を差し引いた粗利になりますから、労働分配率で見ると約30%程度と考えられます。
これは、一般的な開業医の傾向と変わりません。医療法人化すると、労働分配率の平均は60%程度になります(健康保険組合連合会:第21回医療経済実態調査結果報告に関する分析)。
内科勤務医の年収
では、一般的な勤務医の年収はどれくらいなのかというと、独立行政法人 労働政策研究・研修機構「勤務医の就労実態と意識に関する調査」(2012年)によれば、1,247.4万円となっています。
少し古いデータになりますが、開業内科医の年収の約半分です。
もちろん、勤務医の場合は年齢によって年収は大きく違います。
例えば、内科医ではなく、全診療科目の平均になりますが、厚生労働省の賃金構造基本統計調査から確認すると、
・研修医が年収600~700万円程度
・30~34歳で年収900~1,000万円程度
・35~39歳で1,200万円程度
・40~44歳で1,200~1,500万円程度
・45~49歳で1,300~1,600万円程度
・50~54歳で1,500~1,800万円程度
・55~59歳で1,600~1,800万円程度
・60~64歳で1,400~1,600万円程度
・65~69歳で1,500~1,600万円程度
となっています。ただ、これを見るとわかるように、40歳を過ぎると年収は頭打ちしてくる傾向にあります。
勤務医でも一般企業の会社員に比べれば高年収ですが、開業医の場合は、さらに倍の年収が見込めるということです。
また、開業医の場合は年収が年齢によって頭打ちするわけではなく青天井になります。しかし、会社員でいえば起業にあたりますのでリスクも伴います。開業数ヵ月は赤字も覚悟する必要はあるでしょう。
拙著「開業医の教科書®医院経営のヒト・モノ・カネ・情報」の第1章でもお伝えしている通り、廃業して勤務医に戻るようなケースもあります。
都道府県別の開業医と勤務医の年収比較
診療科目別に、都道府県別の開業医や勤務医の年収をまとめた公的データは今のところありません。
しかし診療科目別ではなく、内科に限ったわけではないですが、都道府県別の勤務医の年収のデータはあります。
厚生労働省の平成29年賃金構造基本統計調査の統計によれば、東京都は1,176.3万円、神奈川県が1,197.7万円、大阪府が1146.6万円です。
一方で、北海道は1,729.5万円、青森県は1,684.6万円、岩手県が2446.2万円で、逆に南を見ると鹿児島県が1755.6万円、沖縄県が1696.6万円と、かなり高水準です。
一方で新潟県は951.4万円、富山県が632.2万円、石川県が738.7万円と北陸地域はそんなに年収が高くないというデータが出ています。
ただ、都道府県ごとに回答者の人数や平均年齢が違うため、どれくらいの精度が高いか疑問符が付くデータではあります。
しかし、一般的な会社員では東京都、神奈川県、大阪府などが高年収の傾向にありますが、勤務医の場合は、このような地域格差がないことは推測できます。
開業医の都道府県別のデータはありませんが、開業医に関しても地域格差があるような話はあまり聞きません。特に保険診療中心の内科に関しては、地域格差はあまりないと思われます。
結論としては、内科勤務医も内科開業医も、精度の高いデータはないものの、都道府県別で大きな格差はないとある程度推測できます。
内科の勤務医が開業医を志す理由
内科勤務医の年収と内科開業医の年収を比較すると、2倍程度の開きはありますが、内科勤務医も決して低い年収ではありません。
また勤務医のままでいれば、年齢を重ねれば年収は1,500~1,600万円程度は見込めることに対し、開業医の年収は人によってバラつきがあります。
開業医の場合は平均的に年収2,500万円程度の先生もいれば、内科では稀ですが年収億を超える先生もいれば、逆に収入がなくて貯金を切り崩す先生もいます。
また、今まで学ぶ機会がなかった経営者視点も問われ、勤務医時代にはない苦労もあるので「勤務医の方が合っているな」と感じる先生もいるでしょう。
こういった観点で、一概に開業医が良いとは言えません。
実際に内科開業医の先生に開業医を志した理由を聞いてみても、年収という理由だけで開業医の道に進んだわけではないようです。
「自分の理想の医療を追求したい」
「自分の裁量で診療したい」
「医局の人間関係に煩わされることなく自分らしく診療したい」
「親のクリニックを承継するため」
このように、経済的理由で開業する先生はあまりおらず、自分の志を貫くために開業するケースが多いように思います。
内科開業の開業資金
医院開業するのであれば、事業計画書作成時に、どれくらいの開業資金が必要かをしっかり計算して、どれくらいの期間で返済するかを検討する必要があります。
内科といっても様々あり、テナントなのか戸建てなのか、また開業コンセプトによっても開業資金は大きく変わってきます。
ただ、目安としては戸建て物件での開業の場合は土地、建物だけで3,000万円以上は見ておいた方がいいでしょう。
また、テナント物件としても内装費用を見込む必要があり、坪単価40万~とした場合、25坪で1,000万円程度かかります。そこに保証金、礼金・仲介手数料・保証料などもかかり、当然開業後は家賃が発生します。
そこに、各種医療機器の導入費用が2,000~4,000万円程度かかるので、最低でも4,000~5,000万円くらいは見込んだ方がいいでしょう。
銀行から資金調達する場合は、さらに初年度の運転資金も考慮しないといけません。
このなかで、自分が出せるお金はどこまでか、どれくらいの資金調達が必要か、何年かけて返済するのかを検討します。
ただし、承継開業や居抜き物件の場合は、物件、内装、設備をそのまま使えるので、かなり費用を抑えることが可能になります。
開業コンセプトやビジョンによって様々な選択肢が考えられますが、あまり開業資金をかけすぎて、キャッシュフローを圧迫しないように注意してください。
特に医療機器や設備については、他院との差別化を図ろうとすると高額になることもありますが、需要があるかどうかも踏まえて慎重に検討しましょう。
【まとめ】内科開業医の年収や開業資金はあくまで目安
以上、内科開業医の年収と勤務医の年収との比較、開業資金についてお伝えしました。
内科開業医の平均年収は、内科勤務医の約2倍の2582.4万円となりますが、開業医という性質上、バラつきが大きいです。
開業資金は4,000~5,0000万円ほどですが、これもクリニックの大きさや医療機器によって大きく変わります。
あくまでもざっくりとした目安と捉えてください。
大事なのは、先生がどんな医院・クリニックを開業して、どんな診療をしたいかです。
開業コンセプトをしっかり決めて、そのうえで綿密な事業計画書を作成して開業準備を進めましょう。
監修者
笠浪 真
税理士法人テラス 代表税理士
税理士・行政書士
MBA | 慶應義塾大学大学院 医療マネジメント専攻 修士号
1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢52人(令和3年10月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。
医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。
医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。