医師偏在の実態と問題点とは? 2026年施行の開業抑制についても解説


日本の医療業界における医師偏在問題について、近年は報道されることが増えてきました。
都市部や特定の診療科に医師が集中する一方で、地方や過酷な勤務を伴う診療科では慢性的な医師不足が長年問題となっています。
2025年12月に可決された改正医療法により、2026年4月から都市部における診療所の開業抑制を中心とした医師偏在対策が施行されました。
今後、医院・クリニックの新規開業を目指す先生方のなかにも、気になっている方が多いのではないでしょうか。
本記事では、医師偏在の実態と問題点や、2026年施行の開業抑制について、重要なポイントを解説します。
医師偏在とは?

医師偏在とは、全国的な医師の総数はむしろ増加傾向にあるにもかかわらず、地域や診療科目によって医師数に大きな偏りが起きている状態を指します。
必要な場所に適切な人数の医師が配置できないため、地域医療の供給不足や特定の医師への過重労働が問題になっています。
都道府県別の医師偏在

※厚生労働省「医師偏在指標(都道府県別)(令和6年1月10日更新)」より抜粋
地域間の医師偏在の実態を把握するために、厚生労働省は、上図のように地域ごとに医師偏在指標という数値を算出しています。
医師偏在指標は、単なる人口比の医師数ではありません。
地域の医療ニーズ(人口構成や受療率など)を加味して算出された、医師確保状況を示す指標です。
上図のように、東京都や京都府、福岡県などは医師偏在指標が高い値を示す一方で、東北地方の低さが目立ちます。
医師偏在指標では、トップの東京都(353.9)と最下位の岩手県(182.5)は2倍近い差があります。
診療科目別の医師偏在

※厚生労働省「医学部臨時定員の配分方針と今後の偏在対策について」より抜粋
地域だけでなく、診療科目ごとの医師偏在もあります。
上図は、2008年を1.0とした場合の医師数の推移を示したものですが、内科や形成外科、リハビリテーション科が比較的増加していることがわかります。
一方で、外科や産婦人科などは、需要に対して医師数が増加しておらず、相対的に医師不足が起きていると読み取れます。
実際、外科や産婦人科などは長時間労働が問題になりやすい診療科目です。
医師偏在による問題点
医師の偏在は、地方を中心に医師不足を招くことになり、次のような問題が発生しやすくなります
| 医師の過重労働 | 医師が不足している地方の病院などの勤務医の業務量が膨大になり、深刻な長時間労働が常態化する。過重労働を機に離職が起きやすく、悪循環に陥りやすい。 |
| 医療供給不足 | 地方の医師少数区域では、必要な時に十分な医療を受けられないリスクが高まる。専門医が不在のために、高度な治療が地域内で受けられないことがある。 |
| 緊急時対応の遅れ | 近隣に医療機関がなく、患者さんは遠方の病院まで長時間かけて移動する。救急搬送時には、対応が遅れるリスクがある。 |
| 地域医療連携が困難 | 医師不足により、地域医療連携の体制を築くことができない。 |
上記のような問題が慢性化すると、地域医療の存続が難しくなるなど、深刻な問題が起きる可能性があります。
主な医師偏在対策
国は、医師偏在を是正するため、次のような取り組みが行われている、あるいは今後行われる予定です。
| 地域枠の活用 | 医学部入学時に、将来その地域で一定期間働くことを条件とした地域枠を設け、地方での医師確保を図る。 |
| 臨床研修での地域配分 | 臨床研修医が都市部の病院に偏らないように、都道府県ごとの募集定員に上限を設けてバランスを調整する。 |
| 専攻医の採用上限数(シーリング) | 医師多数の都道府県が実施する専門研修プログラムを中心に、専攻医の採用に上限を設ける。 |
| 地域医療対策協議会・支援センター | 各都道府県で地域の医師不足の状況を把握し、医師のキャリア支援や適切な配置調整を担う。 |
| 医師確保計画の策定 | 都道府県が主体となり、具体的な施策を定めた「医師確保計画」を策定・実行する。 |
| 地方勤務医師への手当増額 | 都道府県が設定する重点区域で働く医師に対し、勤務手当を増額する。他に診療所の承継・開業・地域定着支援、医師の勤務・生活環境改善、派遣元医療機関へ支援などの経済的なインセンティブがある。 |
また、後述する都市部の新規開業抑制も、医師偏在対策の1つとなります。
2026年4月施行の医師偏在対策による開業抑制とは?
<改正医療法の概要>
▼医師の偏在是正対策
・都市部の診療所の開業抑制 26年4月
・地方の医師の手当増額 公布後3年以内
▼地域医療構想の見直しなど
・在宅や介護を含む構想に 27年4月
・美容医療施設に報告義務 公布後1年以内
▼医療DX
・電子カルテで感染症発生届 公布後3年以内
・NDBの仮名化データ提供 公布後3年以内
参考記事)https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA050QZ0V01C25A2000000/
2025年12月に改正医療法が可決され、2026年4月から都市部(外来医師過多区域)における診療所の新規開業の抑制が開始されました。
医師免許があればどこでも医院開業ができる自由開業制は維持されますが、大きな転換点と言えます。
国は施行後3年を目処に制度の見直しを行うとしており、効果が不十分とみなされれば、今後さらに規制が強化される可能性も示唆されています。
都市部における開業抑制の具体的な内容は次の通りです。
・外来医師過多区域の新規開業の事前届出の義務化
・都道府県知事による要請

※厚生労働省「医師偏在対策について」より抜粋
なお、厚生労働省は、外来医師過多区域の候補区域について公開しています。
現状以下の9箇所の二次医療圏が候補区域となっています。
| 都道府県 | 二次医療圏名 | 該当市区町村 |
| 東京都 | 区中央部 | 千代田区、中央区、港区、文京区、台東区 |
| 東京都 | 区西部 | 新宿区、中野区、杉並区 |
| 東京都 | 区西南部 | 目黒区、世田谷区、渋谷区 |
| 京都府 | 京都・乙訓 | 京都市、向日市、長岡京市、大山崎町 |
| 大阪府 | 大阪市 | 大阪市 |
| 福岡県 | 福岡・糸島 | 福岡市、糸島市 |
| 東京都 | 区南部 | 品川区、大田区 |
| 東京都 | 区西北部 | 豊島区、北区、板橋区、練馬区 |
| 兵庫県 | 神戸 | 神戸市 |
※厚生労働省「外来医師過多区域に係る候補区域の公表について」より抜粋
以下、事前届出などの具体的な制度内容についてお伝えします。
外来医師過多区域の新規開業の事前届出の義務化
医療機関が多い外来医師過多区域において、無床診療所を新規開業しようとする場合、開業6ヶ月前までに都道府県への事前届出が必要となります。
【医療法第30条の18の6】
3 第一項の指定を受けた区域において、診療所(医業を行う場所であって、患者を入院させるための施設を有しないものに限る。)を開設しようとする者は、やむを得ない場合として厚生労働省令で定める場合を除き、当該診療所を開設する日の六月前までに、厚生労働省令で定めるところにより、当該区域における地域外来医療の提供に関する意向その他の厚生労働省令で定める事項を都道府県知事に届け出なければならない。
事前届出の記載事項は以下の通りであり、地域外来医療の提供などについても記載が必要になります。
・届出者の住所及び氏名
・届出者以外の者が開設者となる予定である場合は、その者の住所及び氏名
・開設予定の診療所の名称
・開設予定の住所(未定の場合は市区町村等可能な限り詳細な地域)
・開設予定の年月日
・診療を行おうとする科目
・医師、歯科医師、薬剤師、看護師その他の従業者の定員
・地域外来医療の提供に関する意向
・地域外来医療を提供する意向がある場合、提供する予定の地域外来医療の内容(当該提供の頻度及び時期に関する事項を含む。)
・地域外来医療を提供しない場合は、その理由
※厚生労働省「医師偏在対策について」より抜粋
地域外来医療の提供に関しては、在宅医療、夜間・休日診療など、地域で不足している医療機能をどのように担うかを提示する必要があります。
都道府県知事による要請
不足する地域外来医療を提供しないとした場合、都道府県知事は当該医療機関に対して、不足機能の提供を行うように要請することができます。
【医療法第30条の18の6】
6 都道府県知事は、前項の説明の内容を踏まえ、理由等がやむを得ないものと認められないときは、届出者等に対し、期限を定めて、当該区域における地域外来医療の提供をすべきことを要請することができる。
協議の場での説明が求められ、それでも正当な理由なく要請に応じない場合は、以下の厳しい措置がとられる可能性があります。
・医療機関名の公表: 要請に従わない旨や、地域医療への貢献が限定的であることを公表。
・保険指定期間の短縮: 通常6年の保険医療機関の指定期間が2~3年に短縮(健康保険法第68条の2)。
保険指定期間の短縮については、次のように段階的に行われます。
| 指定期間 | 類型 | |
| 3年 | ・要請を受けて、期限までに応じなかった診療所 ・勧告を受けた診療所 ・保険医療機関の再指定時に、勧告に従わない状態が続いた場合(2度目の指定) | |
| 2年 | ・保険医療機関の再々指定時以降に、勧告に従わない状態が続いた場合(3度目の指定以降) |
※厚生労働省「医師偏在対策について」より抜粋
医師の4割が開業規制を必要だと考えている
今回の都市部の新規開業の抑制は、医師の自由開業制を維持するものであり、開業場所が限定されるまではいきません。
また、診療所が多い地域の診療報酬を引き下げるなどの施策も見送られています。
しかし、日本経済新聞と日経メディカルオンラインによる共同調査によると、医師の4割が偏在対策として開業規制が必要だと考えていることがわかっています。
また、「医師偏在が非常に深刻になっている」「やや深刻になっている」と答えた医師が計46%となっています。
上図のように、人口が少ない地域ほど医師偏在が深刻だと捉える医師の割合が多くなっています。
これは、地方医療を支えている先生を中心に、医師偏在に対する危機感が表れていると考えていいでしょう。
日本と同様に公的医療保険制度があるドイツは、外来医師が多い地域での新規開業を認めていません。
今後、日本も外来医師過多区域での開業規制が強化される可能性はあります。
【まとめ】医師偏在対策の最新情報は確認しておく
医師偏在問題の実態と対策、2026年4月に施行された都市部における開業抑制についてお伝えしました。
外来医師過多区域で医院・クリニックを開業する予定の先生は、今回の開業抑制に注意して開業準備を進めるようにしてください。
税理士法人テラス、テラスグループでは、経験豊富な税理士、社労士、行政書士、ファイナンシャルプランナー、事業用物件の専門家などが結集してワンストップで医院開業支援を行っています。
医院開業準備における税務・労務・法務業務のすべてをワンストップで進めることができますので、ぜひご相談ください。




監修者
笠浪 真
税理士法人テラス 代表税理士
税理士・行政書士
MBA | 慶應義塾大学大学院 医療マネジメント専攻 修士号
1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢52人(令和3年10月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。
医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。
医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。


