医療機関への適時調査とは?実施の流れや施設基準を満たさない場合の措置を詳細解説


「適時調査では、どんな準備をしたらいいのか?」
「適時調査でよくある指摘事項はどんなものがあるのか?」
「診療報酬を返還しなければいけないようなこともあるのか?」
適時調査は、医療機関によっては数年に1度しか行われないこともあり、どんな準備をしたらいいかわからないという先生も多いでしょう。
また、適時調査の結果によっては、施設基準を辞退したり、診療報酬を返還したりすることがあり、不安を感じている先生も少なくありません。
そこで、適時調査のよくある指摘事項を交えながら、実際の流れや施設基準を満たさない場合の措置について詳しく解説します。
適時調査とは?

まずは、適時調査の概要についてお伝えします。
地方厚生局の個別指導や保健所の立入検査と混同しやすいですが、適時調査はあくまで施設基準に関する調査である点が特徴になります。
適時調査の主な内容や特徴
適時調査とは、保険医療機関や保険薬局において、地方厚生局に届け出た施設基準の内容通りに、適切な運営がされているかをチェックするための行政調査です。
具体的には、後述するように適切な人員配置や設備、診療体制で運営されているかをチェックします。
施設基準は一度届け出れば終わりではなく、継続的な要件遵守が求められるため、それをチェックするのが適時調査と考えていいでしょう。
適時調査の対象となる施設基準は、重点的に調査を行う施設基準と、それ以外の施設基準に分けられます。
| 重点的に調査を行う施設基準 | 重点的に調査を行う施設基準以外 |
| ・初、再診料 ・入院基本料 ・入院基本料等加算 ・特定入院料等 ・特掲診療料 ・入院時食事療養/入院生活療養 | ・基本診療料 ・特掲診療料(重点的に調査を行う施設基準以外の項目) ・歯科 |
適時調査当日は、重点的に調査を行う施設基準は、必ず確認され、それ以外は必要に応じて確認されます。
適時調査を行う施設基準の詳細は、厚生労働省の公式サイトで公開されているので、確認するようにしてください。
適時調査と個別指導、立入検査との違い
適時調査と混同しやすい行政調査には、個別指導や保健所の立入検査(医療監視)がありますが、次のようにそれぞれ目的や調査内容が異なります。
| 適時調査 | 個別指導 | 立入検査 | |
| 管轄 | 地方厚生局 | 地方厚生局 | 保健所 |
| 頻度 | 原則年1回(※) | 不定期 | 原則年1回(※) |
| 目的・特徴 | 施設基準と実際の運営体制の相違を防ぐ | 保険診療の不正請求を防ぐ | 医療法第25条第1項に基づき施設管理や安全管理を確認 |
| 調査内容 | 施設基準の遵守状況、人員・設備の運営実態 | 保険診療のルール遵守、レセプト請求の妥当性 | 構造設備、安全管理体制、院内感染対策 |
※実態としては数年に1回の頻度となっている医院・クリニックも多い
なお、個別指導や保健所の立入検査については、以下の記事で詳しく解説しています。
適時調査の頻度
適時調査の頻度は、原則年1回ということになっていますが、実態として数年に1度になるケースが少なくありません。
届出を受理した保険医療機関等について、原則、年1回、受理後6か月以内を目途に実施する。なお、当分の間、対象となる保険医療機関数が 300 施設以上の都道府県においては4年に1巡、150施設以上300施設未満の府県においては3年に1巡、150施設未満の県においては2年に1巡を目途として行うこととする。
※厚生労働省「適時調査実施要領」より抜粋
このように、保険医療機関が多い地域については2~4年に1回の頻度となることもあります。
ただ、新規開業時など、新規に施設基準を届け出たような場合は、適時調査の対象となることが多いです。
適時調査の流れ

適時調査の実際の流れをお伝えします。
適時調査は、ある日突然抜き打ちで行われるわけではなく、事前に正式な通知があり、資料準備の期間が設けられます。
実施通知が送付される
適時調査の実施通知は、調査日の1ヶ月前を目処に書面で行われます。
② 保険医療機関等に対して、調査日の1か月前を目途として実施通知を送付する。
③ 特定共同指導等(歯科(病院))又は個別指導(新規個別指導)と同時実施の場合は、1か月前を目途に当該実施通知と併せて適時調査の実施通知を送付する。
※厚生労働省「適時調査実施要領」より抜粋
上記の個別指導とは、先ほどお伝えしたように、保険診療が正しく行われているかどうかをチェックする調査のことを指します。
通知内容には、次の点が記載されているので、事前に準備しておくようにしましょう。
④ 実施通知には以下の事項を記載する。
ア 適時調査の根拠及び目的
イ 適時調査の日時及び場所
ウ 事前提出書類(別途定める)
エ 当日準備書類(別途定める)
※厚生労働省「適時調査実施要領」より抜粋
事前提出書類を提出する
事前提出書類は、当日の調査をスムーズに進めるため、事前に照合を行い、不整合な点について調査当日に確認するためのものです。
② 入院基本料等の施設基準に係る届出書添付書類(様式9)と勤務実績表は事前に照合を行い、不整合の内容について調査当日に確認する。
※厚生労働省「適時調査実施要領」より抜粋
事前提出書類の内容は、上記のように基本診療料に係る届出書添付書類や勤務実績表の他、組織図、院内平面図になります。
勤務実績表については、直近の勤務実績と書類内容の齟齬が指摘されがちなので、入念に確認するようにしましょう。
事前提出書類については、調査日の10日前までに提出する必要があります。
事前提出書類の詳細は、以下の厚生労働省資料を参考にしてください。
当日準備書類を提出する
当日準備書類は、その字のごとく当日までに準備して、適時調査時に提示する書類です
適時調査中に提示を求められたら、即座に提出できるように、抜け漏れなく準備しておきましょう。
当日に提出する書類は、次の通りです。
1.入院基本料の施設基準に関する書類一式
2.入院時食事療養の施設基準に関する書類一式
3.基本診療料及び特掲診療料の施設基準等の届出要件に記載された関係書類一式
4.調査日現在有効な施設基準の届出書(控)一式
5.保険外併用療養費及び保険外負担に関する書類一式
6.その他一般的事項に関する書類一式
7.研修要件のある施設基準に係る研修の修了証の写し
8.入院案内(入院のしおり)
※厚生労働省「当日準備していただく書類」より抜粋
主に取得している施設基準の要件を満たす資料が必要となり、たとえば委員会議事録、研修の修了証の写し、勤務状況がわかる資料などがあります。
当日準備書類の詳細については、以下の厚生労働省資料を参考にしてください。
適時調査が行われる
適時調査当日は、原則として事務官2名、保険指導看護師1名が来院して、院内視察や書類による確認調査を行います。
ただし、届け出ている施設基準の内容や、前回の適時調査の結果などから、事務官だけが来院する場合もあります。
調査時間は、長くても約3時間程度となります。
④ 当日の調査担当者の人数等については、Ⅱ.1(3)①で確認した施設基準が24基準までの場合は、保険指導看護師1名、事務官等2名の調査担当者3名以内の体制を標準とし、調査時間は概ね半日程度(約3時間)以内を標準として実施する。
※厚生労働省「適時調査実施要領」より抜粋
適時調査は、基本的には以下の流れで進められます。
1.調査の目的・調査の手順の説明
2.院内視察
3.関係書類に基づく調査
4.調査結果の取りまとめ
5.調査結果の伝達(講評)
適時調査日以降に確認を要するものが生じた場合は、「調査結果の伝達」の際に事務官から説明があります。
なお、適時調査において、不正が疑われる場合は、調査が中断となり、個別指導や監査の対象となることがあります。
調査において、虚偽の届出や届出内容と実態が相違し、不当又は不正が疑われる場合には、調査を中断又は中止し個別指導又は監査の対象とする。この場合、調査結果は通知しない。なお、調査を中止するに際しては、地方厚生(支)局と協議する等、慎重に判断する。
※厚生労働省「適時調査実施要領」より抜粋
詳しくは後述します。
適時調査結果の通知が行われる
調査当日の最後に、事務官から口頭で講評と主な指摘事項が伝えられますが、あくまで速報のような立ち位置で正式ではありません。
約1ヶ月で正式な結果通知書が書面で送付されます。
結果通知後1ヶ月以内に改善報告書を提出する
適時調査の結果の通知後、指摘された事項については1ヶ月以内で改善報告書を作成して提出しなければいけません。
適時調査で、よく指摘されることは次の通りです。
・施設基準と院内掲示の内容の相違(情報が古いなど)
・医療安全・院内感染対策委員会の記録不備、もしくは適切に行われていない
・院内研修の実施記録の欠如、もしくは適切に行われていない
・届出上の人員配置と実際の勤務記録にズレがある
・特定の業務に専任すべきスタッフが、他の業務も行っている etc
その他、適時調査の指摘事項の詳細については、各地方厚生局で公開されているので、確認してください。
なお、改善報告書の内容から改善効果が見込めないと判断された場合は、再提出を求められることがある点に注意してください。
施設基準を満たしていない場合の措置

明らかに施設基準を満たしていない場合は、改善報告書の提出では済まされず、届出の辞退や返還金を求められます。
また、先ほどもお伝えしたように、不正が行われていると疑われる場合は個別指導や監査の対象となります。
届出の変更・辞退や返還金の請求
施設基準を満たしていない場合は、届出を辞退したうえで、返還金を支払うことになります。
2020~2024年度の返還金額の推移と内訳は次の通りです。

※厚生労働省「令和6年度における保険医療機関等の指導・監査等の実施状況」より抜粋
診療報酬の返還に至った理由は様々ですが、比較的よく見られるのが看護師の72時間ルール違反です。
これは、看護師の1人あたりの月平均夜勤時間を72時間以下に抑えるという義務であり、違反すると入院基本料の減算の対象となります。
その他、人員配置の不足、設備の施設基準未達、研修の未実施、様式9などの書類の不備など、様々なケースが見られています。
個別指導・監査を経て保険医療機関の指定取消
稀ではありますが、適時調査の過程で不適切な算定や保険ルールの逸脱が見つかった場合、適時調査から「個別指導」へと移行することがあります。
さらに、意図的な書類の改ざん(人員の架空計上など)といった悪質な虚偽報告が発覚した場合は、より強権的な「監査」へと移行します。
不正が確定すれば、保険医療機関の指定取消になります。
2020~2024年の取消保険医療機関等数は、次の通りです。

※厚生労働省「令和6年度における保険医療機関等の指導・監査等の実施状況」より抜粋
保険医療機関の指定取消理由としては、架空請求、二重請求、付増請求、振替請求、虚偽の届出、監査拒否など悪質なものが挙げられます。
【まとめ】施設基準は継続的に要件を満たす必要がある
施設基準は届け出て終わりではなく、継続的に要件を満たしておく必要があります。
よほど悪質なケースでなければ保険医療機関の指定取消にはなりませんが、それでも返還金が発生するリスクはあります。
・診療報酬の改定などの最新情報を確認する
・院内掲示の内容が今の施設基準の内容と合致しているか確認する
・施設基準にかかわる書類を即座に確認できるように管理する
・勤務実態が施設基準の要件を満たすように労務管理する
・過去の指摘事項について把握しておく
といったことを、日頃から行うことが大切です。
医業に詳しい専門家の力を借りながら、施設基準を継続的に満たすようにしていきましょう。
最後までご覧いただきありがとうございました。


監修者
笠浪 真
税理士法人テラス 代表税理士
税理士・行政書士
MBA | 慶應義塾大学大学院 医療マネジメント専攻 修士号
1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢52人(令和3年10月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。
医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。
医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。


