医療DXとは?メリット・デメリットや失敗しない導入方法は?


デジタル技術が急速に発展してきており、多くの業種で「DX(デジタル・トランスフォーメーション)」という言葉が使われるようになりました。
DXとは、「Digital Transformation(デジタル・トランスフォーメーション)」の略称で、デジタル技術によって、ビジネスや社会、生活の形・スタイルを変える(Transformする)ことである。
※厚生労働省「医療DXについて 」より抜粋
DXの流れは医療業界でも例外ではなく、厚生労働省が医療DXを推進する動きがあります。
また、2024年の診療報酬改定で医療DX推進体制整備加算が新設されています。
とは言っても、「医療DXとは何か?」「何をしたら良いか?」とよくわからないという先生も多いのではないでしょうか? そこで、今回は医療DXの概要やメリット・デメリット、失敗しない導入方法についてお伝えします。
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医療DXとは?

まずは最初に、医療DXとは何か? という点についてお伝えします。
詳しいことや最新情報は、厚生労働省の公式サイト などにも掲載されていますが、主な概要については次の通りです。
医療DXの定義・概要
医療DXとは、医療分野においてデジタル技術を活用して、医療の質、効率を高める取り組みのことです。
医療DXとは、保健・医療・介護の各段階(疾病の発症予防、受診、診察・治療・薬剤処方、診断書等の作成、診療報酬の請求、医療介護の連携によるケア、地域医療連携、研究開発など)において発生する情報やデータを、全体最適された基盤(クラウドなど)を通して、保健・医療や介護関係者の業務やシステム、データ保存の外部化・共通化・標準化を図り、国民自身の予防を促進し、より良質な医療やケアを受けられるように、社会や生活の形を変えることです。
(中略)
医療DXの実現に向け、「医療DXの推進に関する工程表」に基づき、①全国医療情報プラットフォームの創設、②電子カルテ情報の標準化等、③診療報酬改定DXを3本の柱とし、取組を進めています。
医療DXが必要とされている背景には、少子高齢化による医療従事者の人手不足や過酷な労働環境、アナログな業務による生産性の低下があります。
また、過疎化が進んでいる地域と、そうでない地域で医療格差の拡大が深刻化しており、地域によっては十分な医療を受けられない懸念もあります。
そんな課題を抱えているにもかかわらず、医療業界は他の業界に比べてもDX化が遅れている傾向にありました。
そこで、上記にあるように、厚生労働省は医療DXを推進しようと、以下の取り組みを進めています。
全国医療情報プラットフォームの創設 | レセプト、特定健診情報、電子カルテ、予防接種、電子処方箋などの情報をクラウド間連携して、全国の医療機関や自治体で情報交換する(イメージは下図参照) |
電子カルテ情報の標準化等 | 医療機関におけるデータ交換・共有を推進するために、電子カルテ情報を標準規格化 |
診療報酬改定DX | 診療報酬改定に伴う業務負荷の軽減のため、診療報酬算定モジュールを開発 |

※厚生労働省「全国医療情報プラットフォームの概要 」より抜粋
このような取り組みによって、医療機関ではオンライン資格確認や電子カルテによって業務効率が向上します。
さらに、医療DXの推進によってビッグデータを活用できるようになるため、診療の質の向上や新薬、治療法の開発にも繋がります。
医療DXの具体的な施策
厚生労働省が掲げる具体的な医療DXの施策については、次の通りです。
オンライン資格確認の導入 | マイナンバーカード1枚で保険医療機関・薬局を受診することにより、患者本人の健康・医療に関するデータに基づいた、より適切な医療を受けることが可能 |
電子カルテ情報共有サービス | 全国の医療機関や薬局などで患者の電⼦カルテ情報を共有するための仕組み |
標準型電子カルテシステム | 全国医療情報プラットフォームにつながり、情報の共有が可能な電子カルテであり、民間サービス(システム)との組み合わせが可能な電子カルテシステム |
電子処方箋 | 電子的に処方箋の運用を行う仕組みであるほか、複数の医療機関や薬局で直近に処方・調剤された情報の参照、それらを活用した重複投薬等チェックなどを行う |
医療費助成のオンラインによる資格確認 | マイナンバーカードを、医療費助成の受給者証として利用できるようにする取り組み |
予防接種事務のデジタル化 | 医療機関において、マイナンバーカードを用いて、オンラインで接種対象者の情報を確認するなど、予防接種事務をデジタル化する取り組み。紙の予診票の記載をスマホ1つで完結させるほか、医療機関から自治体に対する費用請求のオンライン化、自治体における接種記録の管理の効率化なども実現 |
介護情報基盤の構築 | 介護サービス利用者の情報を利用者、自治体、介護事業所、医療機関等の関係者間で円滑に共有する取り組み |
医療等情報の二次利用 | 医療等情報の利活用について、法制的論点、情報連携基盤の構築に係る論点等の検討 |
診療報酬DX | デジタル技術を最大限に活用し、業務負担の極小化をめざす |
※厚生労働省公式サイト「医療DXについて 」をもとに作成
医院・クリニックにとっての医療DXのメリット5つ

以上の点を踏まえて、医院・クリニックにとっての医療DXの主なメリットについてお伝えします。
【医療DXのメリット】迅速で質の高い医療の効率的な提供
医療DXによって、患者さんの過去の診療情報や検診結果、薬剤情報が共有されるため、次のような迅速で質の高い医療の効率的な提供に繋がります。
・救急時や意識不明の状況でも、必要な医療情報が連携されることで、迅速な処置に繋がる
・遠隔医療やオンライン診療の普及、迅速な医療情報の提供により、地理的な制約や通院の負担が軽減され、必要な医療にアクセスしやすくなる
・医療・介護関係者間で情報共有できるので連携しやすい
・感染症対策の対応力強化になる
・画像診断支援AIを活用して医師が負担なく迅速に診断できる
・新薬や治療法の開発に繋がる
【医療DXのメリット】業務生産性の向上と事務コストの軽減
電子カルテやオンラインでの受付・問診・会計などにより、スタッフの事務作業や紙媒体での管理業務が大幅に削減されます。
書類作成や手続きの手間が少なくなり、事務コストの大幅軽減に繋がります。
ペーパーレス化によって、保管スペースを有効利用でき、患者さんやスタッフの動線も改善されやすくなるでしょう。
【医療DXのメリット】BCP(事業継続計画)の強化
BCPとは、「事業継続計画(Business Continuity Plan)」の略です。
具体的には、自然災害、大火災、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合、事業を継続できるよう事前に準備しておく計画のことを言います。

医療業界であれば、カルテなど紙や自院のサーバーのみで保管していると、上図の災害によって、データを喪失する恐れがあります。
しかし、医療DXを活用することで、災害や事故が起きても、データが喪失されるリスクは軽減されます。
【医療DXのメリット】待ち時間の短縮による患者満足度の向上
医療DXの活用で、予約時間の把握により、待ち時間の短縮が図れるので、患者満足度が向上することが考えられます。
また、医院・クリニックとしても受付業務の負担軽減や、患者さんの問い合わせ軽減など業務効率の改善に繋がります。
【医療DXのメリット】予防医療の実現
医療DXによって、患者さんのデータを蓄積できるので、個々の患者さんに合わせた予防医療の実現が期待できます。
例えば、膨大なビッグデータのなかで、患者さんが将来発症しやすい病気を予測して、事前に予防したり、早期発見に繋げたりすることができます。
医院・クリニックにとっての医療DXのデメリット3つ

次に、医院・クリニックにとっての医療DXの主なメリットについてお伝えします。
次の点は、注意して医療DXを導入するようにしていきましょう。
【医療DXのデメリット】高額な初期費用とランニングコスト
上記の、厚生労働省が掲げる施策に取り組むには、高額な初期費用やランニングコストがかかることがあります。
たしかに医療DXは人件費などの削減には繋がりますが、そもそも自院で必要なものでなければ意味がありません。
後述するように、医院・クリニックの課題を洗い出して、必要な部分だけ導入するようにしましょう。
【医療DXのデメリット】スタッフや患者さんに最低限のITリテラシーが必要
医療DXを導入すると、院長先生やスタッフ、患者さんにITリテラシーが求められるようになってきます。
特に操作や導入フローが複雑な場合、導入しようにも戸惑うことになります。
実際、とある歯科医院のスタッフが高齢の患者さんにLINE登録してもらおうとしても「LINEは普段使わない」と断られた場面を見たことがあります。
アプリについても同様で、どんなに便利であっても、患者さんによってはスムーズに利用できません。
患者さんのITリテラシーが低いと、医療DXは宝の持ち腐れになることがあるので、わかりやすい操作マニュアルを作成するなどの工夫が必要です。
もちろん、対応するスタッフにもITリテラシーが求められるようになります。
特に高齢の患者さんが多い医院・クリニックは、デジタル格差が生まれないように注意しましょう。
【医療DXのデメリット】セキュリティのリスク
紙の資料も、紛失・盗難などのリスクがありますが、医療DXを導入した場合もセキュリティ関連のリスクがあります。
情報漏洩や不正アクセス、ハッキングなどには十分気を付けて、セキュリティ対策をしないといけません。
医療DXの失敗しない8つの導入方法

医療DXのメリット・デメリットを踏まえて、失敗しない医療DXの導入方法をお伝えします。
医療DXの導入を考えている先生は、次の視点で考えていくと、効果的に導入できるでしょう。
【医療DX導入を成功させるには】現状の課題を洗い出して医療DX導入の目的を明確化する
まずは、日々の診療や事務で現状の課題を洗い出すことから考えて、医療DX導入の目的を明確化します。
無目的にデジタル技術やシステムを導入したところで、高額な費用を無駄にしてしまうだけです。
例えば、紙カルテの管理、予約の電話対応、待ち時間の長さ、スタッフ間の情報共有不足など、日々の業務の問題点を洗い出してみましょう。
また、患者さんから日頃からアンケートを取って、要望をリストアップしていくことも重要です。
課題を洗い出したら、医療DXによって最も改善したい点は何か、優先順位をつけます。 「待ち時間の短縮」「事務作業の削減」「正確な情報共有」など、具体的な目標を設定して問題を解決しましょう。
【医療DX導入を成功させるには】大きく始めずに段階的に導入する
医療DXは、いきなり大きく始めずに、医院・クリニック必要不可欠なところから段階的に導入しましょう。
すべての業務を一度にデジタル化しようとすると、現場の混乱を招きやすく、コストも膨大になります。
上記で洗い出した課題のうち、優先順位の高いことから対策して、医療DXを少しずつ導入していきましょう。
ITリテラシーがそれほど高くなくても導入できるシステムから始めてみるのも良いかもしれません。 DX化に慣れてきたら、徐々に医療DXの範囲を広げていくようにしましょう。
【医療DX導入を成功させるには】医院・クリニックにあったシステム・ツールを選定する
自院の診療科目や規模に合ったシステムを選ぶようにしましょう。
多機能すぎても使いこなせませんし、必要な機能がないと意味がありません。
デモンストレーションを受けたり、他院の導入事例を参考にしたりして、比較検討してみることが大切です。
スタッフや患者さんが日常的に使うものなので、直感的でわかりやすく、複雑なフローがないシステムが好ましいです。
【医療DX導入を成功させるには】セキュリティ対策を徹底する
医療情報は非常に機密性が高いため、デジタル化する場合は強固なセキュリティ対策が求められます。
適切なアクセス権限の設定や定期的なパスワード変更など、運用面でも注意しなければいけません。
情報漏洩のリスクについてスタッフ全員が理解し、取り扱いルールを遵守するよう、周知徹底することが重要です。
【医療DX導入を成功させるには】システムを使いこなせるようにスタッフ研修を行う
スタッフが新しいシステムをスムーズに利用できるように、操作などの研修を行いましょう。
1回の研修では理解しきれないこともあるので、個別にフォローアップや、気軽に質問できる体制を整えることも必要です。
ただ、マニュアルを用意して、不明点はすぐに調べられるようにしておくと、自然と操作を覚えやすくなります。
【医療DX導入を成功させるには】患者さんに周知して必要に応じて使い方をサポートする
受付・会計など、患者さんにかかわる部分のデジタル化については、十分周知・説明しておくことが大切です。
その際、待ち時間の短縮、予約の取りやすさなど、患者さんにとってどのようなメリットがあるのかを説明しておくと反発されにくくなります。
ホームページなどで使い方を説明するのはもちろん、院内掲示や受付での声がけで丁寧に案内して、使い方をサポートしましょう。
【医療DX導入を成功させるには】医療DX関連の補助金を活用する
医療DXに関連する補助金制度がある場合、積極的に活用することで導入コストの負担を軽減できます。
例えばIT導入補助金は医院・クリニックでも利用できて、電子カルテ、レセコン、予約システムなど様々な導入事例があります。
その他、医療DX関連の補助金は近年増えてきているので、DX導入時は最寄りの自治体に問い合わせてみてください。
【医療DX導入を成功させるには】国の動向や施策など最新情報を確認する
医療DXは、厚生労働省が力を入れており、様々な政策や施策を打ち出しています。
医療DXについては、国の政策に影響されることが多いので、最新の情報を確認して、自院の対応方法を考えましょう。
【まとめ】自院の課題を解決できる医療DXを導入する
医療DXの概要やメリット・デメリット、失敗しない導入方法についてお伝えしました。
医療DXを効果的に導入することで、業務生産性が上がったり、医療の質が向上したりするメリットがあります。
一方で、無目的に導入することで、高額なコストを無駄にする可能性があるので、目的をもって導入することが大切です。
なお、医療DXの体制を整備していることを評価するため、2024年度の診療報酬改定で医療DX推進体制整備加算が新設されています。
医療DX推進体制整備加算の詳細は、以下の記事をご覧ください。
最後までご覧いただきありがとうございました。




監修者
笠浪 真
税理士法人テラス 代表税理士
税理士・行政書士
MBA | 慶應義塾大学大学院 医療マネジメント専攻 修士号
1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢52人(令和3年10月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。
医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。
医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。