耳鼻咽喉科クリニックの現状と財務・経営戦略

公開日:2019年8月19日
更新日:2025年6月19日

はじめに

耳鼻咽喉科の診療所の数自体は増加傾向にあり、この10年でだいたい7%ほど増えています。診療所全体でおよそ10%ほど増えていることを考えると、7%の増加自体がそれほど多いというわけではありません。ただ、増えているということは競合が多くなるということでもあり、また同時に参入がしやすい傾向を表します。

耳鼻咽喉科クリニック経営を軌道に乗せる患者数は最低でも55名/日は確保したい

耳鼻咽喉科の患者数は1院あたりの平均でだいたい1日90名(月2,000名程度)で月760万円程度と言われています。1日1人あたり3,800円程度(自己負担1,080円程度)という感じになっています。それが55名(月1,100名程度)だと月470万円程度になります。耳鼻咽喉科のコストはだいたい年4,000万円から4,500万円程度のところが多いので、最低限はこの程度の売上がないと経営は成り立ちません。

1日90名だと年間9,200万円ほど行きますので、経営的にはさほど問題はなさそうです。実際に耳鼻咽喉科の場合は無床診療所・有床診療所ともに1院当たりの収益は平均で2,000万円から3,000万円ほどあります。経営的には安定しているところが多いです。他の科よりも収益的には安定しているクリニックも多く、経営面からみると上手く行きやすい傾向がありそうであると感じます。

耳鼻咽喉科クリニックの患者数は比較的多い

耳鼻咽喉科の患者数は、1クリニック平均で1日あたり90名・月に2,000名ほどと、かなり多くなります。ただこの数字はあくまで平均であって、クリニックによっては1日100名を超えるところも多くあります。また花粉症などの繁忙期には1日あたり130名・140名ということも出てきます。こうなってくるとクリニック自体が戦争状態になります。患者数も多くなりますので、待合室も混雑します。午前・午後・夕方と休みをほとんど取らずに診療をしなければならない場合も出てくるでしょう。これらの状況から、耳鼻咽喉科は患者さんをいかにうまく捌くかが重要であることがわかります。

耳鼻咽喉科クリニックの患者は子供が多く後期高齢者は少ない傾向

耳鼻咽喉科の場合は、意外にも高齢者、特に後期高齢者の患者さんの割合は1割程度とだいぶ少なくなっています。その代わりに小さいお子さんや、若い患者さんが多い傾向があります。この高齢者の割合が少ないというのが、耳鼻咽喉科の特徴といえます。ここから3割負担の患者さんが多いということになりますので、保険診療を行う上では多少のメリットになりそうです。

耳鼻咽喉科の患者さんに若い方が多い理由としては、2・3月の花粉症との関連が出てきます。耳鼻咽喉科は花粉症の対応をしていますので、この時期は特に患者数が増えます。花粉症の時期には、夏季の1.5倍ほどの患者数になるところも多くあります。さらに耳鼻咽喉科は小児科を兼ねているところもありますので、風邪やアレルギーなどの治療を行っているクリニックもあります。このようなこともあり、耳鼻咽喉科の患者さんはお子さんや若い方が多くなる傾向にあるようです。

また生命にかかわるような深刻な病気がほとんどないという点では耳鼻咽喉科の開院のストレスは比較的小さいといわれています。夜間診療に対応する必要もほとんどありません。

耳鼻咽喉科の収益は割に良い傾向

耳鼻咽喉科は、患者数が多い割には施設や設備にさほどお金がかからない方なので、比較的収益が高めになっています。ただ患者数が多いので、広めの待合室を確保しておくか、予約システムの拡充が患者さんに選ばれる医院の要素となるでしょう。また設備も聴力検査器などは比較的高価なのでそれなりにはかかりますが、それでも他の科よりはコストが小さい傾向にあります。人件費も医師と看護師2名程度で乗り切ることはできるので、比較的少額で済みます。

これらの理由から、耳鼻咽喉科の収益は、他の科よりも良い傾向があります。耳鼻咽喉科のクリニック自体も数は増えていますが、それ以上に患者数が増えているということもあり、収益を確保できているクリニックは比較的多いです。

耳鼻咽喉科における自由診療展開


耳鼻咽喉科の自由診療は、中耳炎やインフルエンザ治療などの治療のために行う鼻洗浄・中耳炎からの鼓膜の狭窄を治療するための耳管通気・アロママッサージ・神経疾患の治療などがあります。原因不明の体調不良などがあると、神経疾患が疑われます。その際には耳鼻科で治療を行うことが多いです。

耳鼻咽喉科クリニックの中で、自由診療の収入は無床クリニックでだいたい1割弱ほど、有床クリニックではおおよそ3割弱ほどになっています。これは全体の平均値でありますので、保険診療が大半のクリニックもあれば、自由診療が全体の収入の半分以上になっているところもあります。

有床クリニックの方が営業コストがかかりますので、価格の高い自由診療を多く行っているという方針は理解できます。

耳鼻咽喉科の比較的多い患者さんをどうさばいていくか

耳鼻咽喉科の患者数は、1クリニックあたり1日平均で90名ほどと言われています。この90名という患者さんの診察は、かなり大変なものがあるでしょう。1時間に10名を診察しても、おおよそで9時間ほどかかることになります。1時間に10名を診察するとなると、患者さん1人当たりの診察時間は、平均で5分程度になります。10人で1時間だと6分あるのですが、患者さんの交代などにも時間を要するので、実際の診察時間は5分あるかどうかと見積もった方がいいでしょう。この5分というのが患者さんにとっての最低限度の診察希望時間といえます。これ以下にすると患者さん自体にあまりメリットがなくなってしまうので、これ以下にすることは難しくなります。

ただ1日90名を診察するとなると、おそらく9時から19時くらいまでクリニックを開院をしなければならなくなります。それが毎日となってくるとかなりの負担になるでしょう。この点で体力面の負担がかかることは否定できません。高齢の医師であればさらにこの面の負担が増してきます。

また耳鼻咽喉科の患者数は年々増えていく傾向にありますので、今後も「耳鼻咽喉科の医師は体力勝負」な状況はしばらく続きそうです。

耳鼻咽喉科の収入

内科のコスト


収入=患者数×客単価に、診療報酬の点数が比例してきます。後期高齢者の数が多いということは診療報酬・保険収入に頼る部分が大きくなります。この部分は今後も下げていくのではないかと思われますので安心はできません。

耳鼻咽喉科の診療所の場合は月平均の患者数2,000人・客単価が3,800円程度になっています。そうなってくると診療所に入ってくる1年の収入は3,800円×2,000人×12か月=9,120万円程度になります。耳鼻咽喉科の経費を引いても2,000万円から2,500万円程度の利益は少なくても手元に残りそうです。この収益は医師自身の収入といっても過言ではありません。

耳鼻咽喉科の場合は、患者数が10年で4から5%ほど増えています。今後も患者数の増加によって収入の上がる耳鼻咽喉科クリニックは増えていくのではないでしょうか。

耳鼻咽喉科の経費

今までは収益の面でみてきました。今度は医療スタッフや設備などのコストの面を考えていきます。

まず耳鼻咽喉科クリニックなどを経営するには建物が必要です。建物を買うか、借りるか。またその費用を一発現金で払うか、ローンで払うかという問題が出てきます。そこで購入、一発現金以外の場合は毎月の建物のローンが発生します。このローンの額は地方、都市部。駅近く、郊外などによってかなりのばらつきが出ます。おそらく最低でも月20万円、都心部などの高いところでは80万円クラスの規模になってもおかしくはありません。耳鼻咽喉科を中心に経営をしていくクリニックの場合は、整形外科のような広い施設を確保することは必須ではありません。この分、建物の費用はある程度抑えられそうです。

また人員面でも、医師と看護師2名がいれば大きな問題はなさそうです。さすがに1名では有事の時に厳しいので2名いることが理想的といえます。

事務員さんなどは奥さんや身内の方に手伝ってもらうことも可能ですがそれでも多少の人件費はかかってしまいます。いずれにしても固定費もそう簡単には減らせません。この収入が減る、固定費が変わらないというところが病院・診療所経営の難しいところでもあります。

建物・器具・人件費などでで耳鼻咽喉科のコストはだいたい5,000万円程度はかかるといわれています。他の科よりも膨大にかかるというわけではないのですが、それなりのコストはかかります。

収益=収入ーコストで計算しますと、前年度の収入が年間9,100万円・固定費などのコストが5,000万円であれば9,100万円‐5,000万円=4,100万円程度は手元に残ります。

収入はほぼ横ばいか少し上がると仮定し、100万円くらいプラスで考えていきます。人件費は少しずつ高騰していくので、10年で100万円くらいの出費がさらにかかるものと計算します。

となると数年後には9,200万円‐5,100万円=4,100万円になります。コストが多少かかっても患者数の増加で、当面は収益を確保できそうです。

患者への対応が大事

耳鼻咽喉科の場合は、耳や鼻の手術を行うこともありますが、さほど多くはありません。ほとんどの耳鼻咽喉科クリニックの場合は、手術よりも診察・投薬という治療方針を行っているところが多くなります。そうなっていくと、患者さんにいかに寄り添っていくかが重要となり、丁寧な対応をしていけるかはとても重要です。特に都市部のクリニックでは競合が多い状況にありますので、ちょっとした対応の不備、接遇の差で他院に行かれることもあります。患者数が多いので仕方ない面もあるのですが、この接遇をきちんとするという事は、患者さんに選ばれる医院であるために非常に大切なポイントです。

また耳鼻咽喉科クリニックの場合は、乳幼児や小学生などのお子さんが多く来院されます。クリニックによっては風邪やインフルエンザなどの小児科も併設しているようなところもありますので、お子さんへの接し方と、引率の親・祖父母に対する対応の仕方で悩んでしまう医師や看護師も多いようです。

また耳鼻咽喉科クリニックの場合は患者数が多いので、医師と看護師などの医療スタッフの連携がとても重要になります。一例としては患者応対を看護師が行う、次に症状などの状況を聞いて投薬を含めた適切な診療方法を医師が提供する、そこに聴力検査などが必要であれば看護師が対応し、医師もしくは臨床検査技師などが検査を行う、次に新しく出た薬の説明と次回の診療の日程を看護師が決めるという具合で、流れ作業が重要になります。

医師と看護師、場合によっては臨床検査技師も含めた診療の連携が必要になるわけですが、この連携がしっかりとしているか否かで2割程度診療の効率が違ってくるのではないでしょうか。このいかに多い患者をうまく捌くかという点においても、収入や収益に大きな差が出てきますので、しっかりと連携して行うことが重要になります。

耳鼻咽喉科の医師は高い治療技術を要することはありませんが、診療医として患者そして看護師などとの医療スタッフとの連携などのコミュニケーション力が必要になります。ここができれば患者数を確保することは難しくなさそうです。若い患者が多くクリニックが増えているという実態からみても、都市部の新規開業という比較的高難度の分野でも参入のチャンスは残されているような気がします。

その際は、財務・経営に精通した税理士選びも重要になってきます。

耳鼻咽喉科クリニックのデータ作成

  A医院(分業)
実患者数 2013
延患者数 2540
平均来院回数 1.262
初診料 1049(52.1%)
初診:乳幼児加算 63
初診:妊婦加算 3
初診:乳幼児夜間加算  
初診:夜間・早朝等加算 48
再診料 1186
同日再診料 1
電話等再診  
再診:乳幼児加算 154
再診:夜間・早朝加算 20
再診:妊婦加算 21
時間外対応加算1  
時間外対応加算2  
明細書発行体制加算 1186
耳垢除去 246
鼻処置 1315
耳管処置 286
耳処置 524
喉頭処置 198
喉頭処置 12
扁桃処置 132
鼓膜処置 32
副鼻腔自然口開大処置 760
超音波ネブライザー 3
ネブライザー 967
血液学的検査判断料 3
免疫学的検査判断料 47
尿・糞便等検査判断料  
微生物学的検査判断料 29
生化学的検査判断料 8
呼吸機能検査等判断料  
外来迅速検査加算  
標準聴力検査 229
簡易聴力 198
平衡機能検査 8
チンパノメトリー< 183
咽頭ファイバースコピー 1
重心動揺計 22
単純撮影 8
CT撮影  
超音波検査  
胃・十二指腸ファイバースコピー  
骨塩定量検査  
心電図  
負荷心電図  

税理士法人テラス、テラスグループでは、経験豊富な税理士、社労士、行政書士、ファイナンシャルプランナー、事業用物件の専門家などが結集してワンストップで医院開業支援を行っています。
医院開業準備における税務・労務・法務業務のすべてをワンストップで進めることができますので、ぜひご相談ください。

笠浪 真

1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢52人(令和3年10月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。

医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。

医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。

こちらの記事を読んだあなたへのオススメ