医療業界10個のAI活用例|利用時の注意点や補助金制度なども詳細解説

公開日:2026年8月27日
更新日:2026年8月27日

ChatGPTやGeminiなど、日常生活や様々な職業でAIを使うことが当たり前になってきました。

一方、医療の現場でもAIの実用化が進んできています。

医療従事者の人手不足が深刻になるなかで、医療のAI活用はますます加速すると考えられます。

実際、病院だけでなく、中小規模の医院・クリニックでもAIの活用事例は少なくありません。

AIシステムの導入には初期費用等のコストがかかりますが、補助金を活用して自己負担を抑えることもできます。

そこで、今回はAI活用の事例や、利用時の注意点、関連する補助金制度についてお伝えします。

医療業界のAI活用の現状

医療業界では、医療従事者の人手不足や医師偏在の問題が深刻になっており、過重労働やヒューマンエラーを引き起こすリスクがあります。

この問題にAIで対処するため、厚生労働省は2017年に「保健医療分野におけるAI活用推進懇談会」を開催しました。

懇談会では、以下の重点6領域が選定されました。

・ゲノム医療
・画像診断支援
・診断・治療支援
・医薬品開発
・介護・認知症
・手術支援

※【参考】厚生労働省「保健医療分野におけるAI開発の方向性について 」

以後、重点6療域については、厚生労働省の主導により、民間企業のAI開発が促進され、実用化されつつあります。

また、近年は生成AIの実用化が加速しており、問診などの記録作成、患者情報の検索など日常業務への実装・普及も進んでいます。

生成AI活用については、大病院だけでなく中小規模の医院・クリニックでも導入しやすく、業務効率化の一助となってきています。

一方で、医療分野のAI活用については、まだ法整備や医療従事者の知識という点で課題が残っているのは否めません。

実際、医療業界のAI活用は、期待されているほどには普及が進んでいない現状もあります。

ただ、今後厚生労働省はデータベースの連携やガイドライン作成などの整備を進める見込みであり、AIの普及は急速に進むと予想されます。

医療分野のAI活用については、厚生労働省の取り組みを注視して、最新情報を確認するようにしましょう。

医療業界における10個のAI活用例

以上のことを踏まえて、現在の医療業界で実際に導入されている10個の代表的なAI活用例を解説します。

ゲノム医療のAI活用

患者さんの遺伝子情報(ゲノムデータ)をAIで高速解析し、最適な治療法(抗がん剤の選択など)を提案する「がんゲノム医療」での活用が進んでいます。

膨大な医学論文や臨床データと患者さんの遺伝子変異をAIが瞬時に照合することで、治療方針の決定をサポートします。

今後はゲノム医療のAI活用により、患者さん一人ひとりに最適化された個別化医療の実現に貢献できると期待されています。

AIを活用した内視鏡検査の画像診断

画像診断系のAI活用で、実用化が進んでいるのが内視鏡検査です。

胃や大腸の内視鏡検査において、AIがリアルタイムで病変の疑いがある箇所を検知するので、医師の見落とし防止に役立ちます。

検査の精度が向上し、ポリープなどの早期発見につながります。

現在、薬事承認を受けたAI内視鏡システムが多数のクリニックで稼働しています。

CT、MRIなどの医療AI活用

CT、MRIなどの医用画像をAIが解析し、脳動脈瘤などの異常所見をハイライト表示する技術があります。

読影専門医の負担を大幅に軽減するだけでなく、非専門医が読影を行う際の「ダブルチェック機能」として働きます。

CTやMRIなどの画像を読影できる専門医の不足をカバーできるほどの診断精度の向上が期待されています。

オンライン診療のAI活用

オンライン診療システムにAIが組み込まれ、診療の質を向上させる事例が増えています。

例えば、画面越しの患者さんの話している内容から、想定される病名や緊急度の目安をAIが示してくれるといったものです。

メンタルヘルスケアの領域であれば、表情や声のトーンからAIがストレス状態を分析する機能もあります。

AIによって、オンライン特有の情報量の少なさを補い、質の高いスムーズなオンライン診療が可能になりつつあります。

オンライン診療については、以下の記事をご覧ください。

オンライン診療のメリット・デメリットと導入までの検討事項

コロナ禍をきっかけに「そろそろ当院でも、オンライン診療の導入を検討したほうがよいのでは?」とお考えのクリニックの院長先生もいらっしゃるでしょう。 しかし、オンラ…

オンライン診療の施設基準と地方厚生局への届出の概要や手続き方法

2022年の診療報酬の改定により、オンライン診療の診療報酬が次のように見直されました。 初診料:214点⇒251点(届出をしなければ214点のまま) 医学管理料の項目追加と評価…

AIを活用した医薬品開発

新薬の候補となる化合物の探索や、副作用の予測をAIが行う「AI創薬」という分野があります。

従来であれば10年以上かかることもある探索プロセスを、AIによって数ヶ月単位に大幅に短縮することが期待されています。

AIロボット

医療現場の人手不足を補うため、AIを搭載した介護用のロボットや、手術支援ロボットの導入が進んでいます。

介護施設では、入居者の危険動作(ベッドからの転落、転倒など)や異常を検知した際に、スタッフに通知するシステムがあります。

カルテなど書類作成の効率化

医院・クリニックで導入しやすく、かつ費用対効果を感じやすいのが書類作成のAI活用です。

例えば、診察中の音声をAIが拾い、医療用語を正確に認識して電子カルテのSOAP形式に自動で要約・転記します。

その他、退院サマリー、紹介状(診療情報提供書)、返書、訪問看護指示書などのドラフトをAIを活用して作成することで、書類作成にかかる時間を劇的に削減できます。

【導入事例】東京都保健医療局「文書作成業務における生成AI技術の活用_赤羽東口病院 」

AIを活用した問診システム

患者さんが来院前や待合室でスマートフォンから入力した症状に対し、AIが追加問診を自動で行うなどのシステムがあります。

先生が患者さんを診察する前に、AIが構造化した問診結果を把握できるため、診察時間の短縮と見落としの防止を両立できます。

問診にかかる時間を削減できることで、先生と患者さんの対話時間が増やせるなど、間接的に患者満足度の向上にもつながるでしょう。

また、電子カルテ入力についてもAI問診の結果画面から問診内容をコピー&ペーストすることで、効率化を図ることができます。

【導入事例】東京都保健医療局「AI技術を活用した問診システム_賛育会病院

診療報酬算定の効率化やミス防止

AIによって診療報酬の算定漏れをチェックしたり、適応病名と処方薬・検査の不一致を検知してくれます。

返戻や査定のリスクを未然に防ぐとともに、医療事務スタッフのレセプト業務の負担軽減につながります。

オンコール支援システムのAI活用

在宅医療を担うクリニックでは、24時間体制の電話対応は医師やスタッフの大きな負担です。

また、口頭でのやり取りは指示内容や症状の説明に齟齬が生じやすく、トラブルから患者さんの安全や信頼関係を損なうリスクもあります。

そこで、医療用語に対応した高精度な音声認識技術で通話内容を自動でテキスト化し、AIが電子カルテを自動作成するシステムが役立っています。

このAI活用により、カルテ作成の時短、医療指示の正確性向上、多職種連携の効率化を実現した例があります。

【導入事例】東京都保健医療局「AI技術を活用したオンコール支援システム_松原アーバンクリニック

医療業界がAIを活用する際の3つの注意点

医療現場のAI活用は、今後も進むと思われますが、導入・運用にあたっては次の3点に十分注意しましょう。

誤診・誤作動の可能性がある

AIの判断精度は、学習させた医療データが多くなるほど高くなります。

逆に言えば、データの蓄積が少ない希少疾患や症状では精度が落ち、誤診の可能性が高くなります。

ChatGPTのような生成AIと同様に、AIはあくまで支援ツールであり、完璧ではありません。

最終的な診断は先生ご自身が行うことを念頭に置き、AIを鵜呑みにせず、必ず専門的な知見に基づいた最終確認を行うことが不可欠です。

セキュリティ対策がないと情報漏洩のリスクがある

医療データは、個人情報保護法における要配慮個人情報に該当するため、情報漏洩のリスクを想定して厳格な取り扱いをしなければいけません。

クラウド型のAIサービスを利用する場合、サイバー攻撃などによる情報漏洩リスクが伴います。

また、スタッフの操作ミスによって、患者情報が流出してしまうことも考えられます。

導入するシステムが、「3省2ガイドライン」に準拠しているかを確認し、セキュリティ対策も強化する必要があります。

【税理士監修】スタッフの情報漏洩からクリニックを守る対策と守秘義務

カルテなどの患者の個人情報は、医師や看護師などの医療従事者には厳格な守秘義務が課されています。 万が一、患者の同意がなく、クリニックから個人情報が漏洩した場合は…

AIシステムにはそれなりの導入コストがかかる

AIシステムの導入には、初期費用や保守費用、クラウド利用料などの月額利用料などのランニングコストがかかります。

「スタッフの残業代削減」「外来患者数の増加」「離職防止」といった中長期的な費用対効果を検証して、効果的な投資判断を行いましょう。

後述するように、国や自治体の補助金制度を活用することも検討してください。

医療業界のAI活用で活用できる補助金

医療AIの導入資金を調達するために、国や自治体の補助金制度を活用する方法があります。

補助金をうまく活用することで、自己負担を大幅に軽減できます。

デジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)

デジタル化・AI導入補助金は、以前は「IT導入補助金」という名で知られていた補助金制度です。

AIの導入に限らず、医療DX関連の導入費用については、デジタル化・AI導入補助金を検討するといいでしょう。

スタッフ数が300人以下の医療法人、個人医院・クリニックが対象となり、申請枠は次の通りです。

申請枠主な補助対象経費最大補助率補助額
通常枠ソフトウェア購入費、クラウド利用料、導入関連費1/2・5~150万円(1プロセス以上) ・150~450万円(4プロセス以上)
インボイス枠
(インボイス対応類型)
インボイス制度に対応している会計・受発注・決済ソフト、PC・タブレット、レジ・券売機等【ソフト】
2/3~4/5
【ハード】
1/2
【ソフト】
・1機能:50万円以下
・2機能以上:50~350万円
【ハード】
・PC・タブレット等:10万円以下
・レジ、券売機等:20万円以下
インボイス枠
(電子取引類型)
受発注ソフト1/2~2/3350万円以下
セキュリティ対策推進枠サイバーセキュリティお助け隊サービス利用料1/2~2/35~150万円
複数者連携デジタル化・AI導入枠ソフトウェア、PC・タブレット、レジ・券売機等のハードウェア、消費動向等分析経費など【ソフト】
2/3~4/5
【ハード】
1/2
【その他】
2/3
基盤導入と分析経費の合計で上限3,000万円。 事務経費等は上限200万円

デジタル化・AI導入補助金2026公式サイトをもとに作成

医療機関におけるAI技術活用促進事業(東京都など)

各自治体が実施している、医療機関のAI技術活用に関する補助金事業です。

例えば東京都では、医療機関がAI技術を活用して医療従事者の負担軽減を図る取り組みに対して補助金を支給しています。

ご自身の医院・クリニックが所在する自治体の最新情報をチェックしてください。

参考までに、東京都の「令和8年度 医療機関におけるAI技術活用促進事業」の概要は次の通りです。

補助対象者東京都内の200床未満の病院の開設者または有床診療所の開設者
対象経費(1)AI問診の導入に係る費用
(2)電子カルテ等へのAIによる音声自動入力の導入に係る費用
(3)AI通訳機など多言語対応のため必要な機器やシステムの導入に係る費用
(4)その他AI技術を活用したシステム等の導入で、知事が適当と認めるものに係る費用
(5)(1)から(4)までに関連する電子機器の導入に係る費用
(6)(1)から(4)までを、既存の電子カルテシステム等と連携させるための改修に係る費用
(7)病院全体の業務改善を行うため、 (1)から(4)までの取組の実施と合わせて活用するコンサルティング
補助率1/2
基準額1,000万円(コンサルティングを実施する場合は2,000万円)

※東京都保健医療局「令和8年度 医療機関におけるAI技術活用促進事業」をもとに作成

【まとめ】自院に合ったAI活用で業務効率化と医療の質向上を

医療業界におけるAIの活用は、医療従事者の人手不足や過重労働の解決策の1つとして期待されています。

電子カルテ作成やレセプト業務、初期問診などをAIに任せることで、業務効率化を図れることはもちろん、患者さんと向き合う時間を増やすことができます。

結果として、クリニック全体の医療の質と患者満足度の向上にもつながります。

まずは自院が抱える課題を洗い出し、解決策となるAIツールの導入を検討するようにしましょう。

なお、医療DXについては、以下の記事をご覧ください。

医療DXとは?メリット・デメリットや失敗しない導入方法は?

デジタル技術が急速に発展してきており、多くの業種で「DX(デジタル・トランスフォーメーション)」という言葉が使われるようになりました。 DXとは、「Digital Transforma…

医療DX推進体制整備加算とは?施設基準や届出方法などを詳しく解説

医療機関がデジタル技術を活用して医療の質を高める体制を整備していることを評価するため、2024年度の診療報酬改定で医療DX推進体制整備加算が新設されています。 さらに…

最後までご覧いただきありがとうございました。

笠浪 真

1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢52人(令和3年10月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。

医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。

医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。

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