クリニックの院内はスリッパと土足どっち?開業時に迷いやすいポイントを詳細解説


新規開業準備中の先生が、内装設計の段階でよく悩むことの1つに、「スリッパがいいのか? 土足がいいのか?」という点があります。
たしかに、入口でスリッパに履き替えるクリニックもあれば、土足のまま院内に入ることができるクリニックもあります。
クリニックの床をどうするかに直結することだけに、どちらがいいか迷う先生は多いです。
たしかに、スリッパと土足については、どちらがおすすめというものではありません。
ただ、スリッパも土足もメリット・デメリットがあり、クリニックによって向き不向きはあります。
そこで、今回は、スリッパと土足のメリット・デメリット、向き不向きなどをお伝えします。
スリッパのメリット・デメリットや重要ポイント

スリッパに履き替えるというのは、日本の住宅文化に馴染み深い「玄関で靴を脱ぐ」というスタイルに近く、クリニックでも長く主流でした。
そのため、歴史の長いクリニックほどスリッパ履きのクリニックが多い傾向にあります。
ただ、以下のようにメリット・デメリットがあるので、必ずしもスリッパ履きがおすすめというわけではありません。
また、スリッパ履きを採用する場合は、いくつか重要ポイントや注意点があります。
【メリット①】泥やホコリを持ち込まれず床の衛生を保つことができる
スリッパの場合、院外からの泥、砂、ホコリの侵入を玄関で防ぐことができるため、院内の床面をクリーンな状態に維持できます。
特に、ハイハイをする乳幼児が多い小児科や、床でのリハビリを行う場合がある整形外科では、衛生環境の確保は重要です。
清潔に保つことができるので、院内感染のリスクも軽減できます。
【メリット②】雨の日でも濡れずに患者さんに快適に過ごしてもらえる
雨天時、土足の場合は濡れた靴で院内を歩くことになり、患者さんの足元が不快になるだけでなく、滑って転倒するかもしれません。
スリッパに履き替えることで、患者さんは濡れた靴から解放され、快適に院内を移動できますし、転倒事故防止にもなります。
【メリット③】患者さんが足の締め付けから解放されてリラックスしやすい
革靴やパンプス、ブーツなどは足を締め付けるため、院内で長時間履いているとストレスになることがあります。
待合室で過ごす間、スリッパに履き替えることで足の圧迫感から解放され、リラックスした状態で診察を待つことができます。
【デメリット①】患者さんが靴を履き替えることを手間と感じる
患者さんの立場から見た場合、スリッパに履き替えることは手間に感じます。
特に腰痛・関節痛を抱える患者さんにとって、屈んで靴を脱ぎ履きする動作は大きな負担となります。
靴を棚に置いておくことで、患者さんの履き間違いが発生して、クリニックにクレームが発生することもあります。
似たような靴を、他の患者さんが間違えて履いて帰ることは珍しくありません。
さらに、「他人が履いたスリッパを履きたくない」という衛生観念を持つ患者さんも一定数います。
患者さんは、必ずしも「スリッパ=衛生的」とは思っていないことを理解しておく必要があります。
【デメリット②】水虫の感染リスクがあり一回一回消毒しなければいけない
不特定多数が共有するスリッパは、白癬菌(水虫)などの接触感染のリスクがあり、前述のように抵抗感のある患者さんは少なくありません。
スリッパが一度利用されたら、アルコール清拭や定期的な洗浄が必要となり、院内スタッフの業務負担になります。
衛生管理が不十分だと、クリニックの評判を落とす要因にもなりかねません。
床の衛生管理の負担が少ない反面、スリッパには気を配る必要があります。
【デメリット③】定期的にスリッパの買い替えが必要になる
スリッパは毎日多くの患者さんが使用する消耗品であるため、汚れや破損、経年劣化は避けられません。
スリッパの清潔感を維持するためには、定期的な買い替えが必要です。
安価なものを頻繁に変えるか、耐久性のある高価なものを導入するか、ランニングコストは要検討です。
【ポイント①】使い捨てスリッパを使用する
衛生面を気にする患者さんへの配慮として、使い捨てスリッパの導入は有効な解決策です。
使い捨てにすることで、患者さんは接触感染リスクの不安がなくなり、清潔なクリニックという印象を持つでしょう。
ただ、ランニングコストについては、通常のスリッパと比較検討が必要です。
【ポイント②】スリッパ用の除菌装置で消毒の手間を省く
スタッフによる手作業の消毒負担を減らすために、紫外線殺菌灯がついた除菌装置などを導入するのもおすすめです。
中に入れておくだけで除菌ができることで、スタッフの業務負担軽減だけでなく、患者さんに安心感を与えることもできます。
【ポイント③】下駄箱や段差を考慮した入口設計をする
スリッパを採用する場合、入口には下駄箱を置くスペースや、靴を脱ぐための上がり框(かまち)と呼ばれる段差が必要になります。
ベビーカーや車椅子がスムーズに入れるか、下駄箱に十分な収納量があるか、内装設計の段階で動線計画を立てておく必要があります。
土足のメリット・デメリットや重要ポイント

昔はスリッパ運用のクリニックが多かったですが、今では都市部のクリニックを中心に土足も珍しくありません。
今は舗装された道路が多く、靴が汚れた状態で来院する患者さんが少なくなっていることも、土足のクリニックが増えている要因と思われます。
【メリット①】患者さんが靴を履き替える必要がない
患者さんの立場で考えた場合の、土足の大きなメリットは、患者さんが靴を履き替える必要がないことです。
体調が良くない患者さんや、腰や膝が悪い患者さんにとって、靴の脱ぎ履きがなくスムーズに入退室できるのは大きいでしょう。
【メリット②】段差や下駄箱が不要になり入口のスペースを確保しやすい
土足の場合、段差が不要になり、下駄箱を設置するスペースも基本的に不要になります。
限られたテナント面積でも余裕ができて、入口、待合室ともに広く取ることができます。
【メリット③】車椅子やベビーカーの来院に対応しやすい
段差がないフラットな床は、車椅子やベビーカーなどを利用する患者さんにとっては親切な設計です。
入口から待合室、診察室までスムーズに移動できる点は、整形外科や小児科の患者さん、特に高齢者にとってはメリットが大きいでしょう。
【デメリット①】泥やホコリ、雨水が持ち込まれる
土足は、どうしても院外の泥やホコリと言った汚れが院内に持ち込まれます。
特に雨や雪の日は、泥汚れや水滴によって床が汚れやすくなります。
患者さんの足跡や汚れが目立つなど、クリニックの清潔感を損なうことになれば、患者さんの印象は悪くなります。
【デメリット②】雨の日は床が濡れやすくなる
雨水で床が濡れていると、転倒事故のリスクが高まります。
特に高齢の患者さんが多いクリニックでは、滑りやすい床材などは避けた方がいいでしょう。
【デメリット③】定期的な掃除や除菌が必要になる
スリッパ運用に比べて、定期清掃の手間はどうしても増えてしまいます。
清掃スタッフの外注や清掃道具の確保など、メンテナンス体制を作ることが不可欠になります。
【ポイント①】必要な箇所には汚れを防止する
院内すべてを同じ床材にするのではなく、汚れやすい待合室と、清潔を保ちたい処置室でゾーン分けをすることも検討の余地があります。
場合によっては、レントゲン室や処置室だけ患者さんにスリッパに履き替えてもらう、スリッパ・土足併用型も1つの選択肢です。
【ポイント②】入口の動線を考慮して土砂落としや吸水マットを配置する
土足運用で重要なことは、「入口でいかに汚れを落とすか」にあり、患者さんの動線を考慮することが必要となります。
例えば、風除室に粗い目の泥落としマットを敷き、自動ドアの内側には長めの吸水・吸塵マットを配置するといったものです。
患者さんが歩くだけで自然に靴裏の汚れが取れるよう、マットの長さを計算して配置できるといいでしょう。
【ポイント③】汚れや傷がつきにくい床材を利用する
現在は土足でも傷がつきにくく、汚れが落ちやすい高機能な床材が多数存在し、デザインも豊富です。
内装業者と相談し、デザイン性はもちろん、汚れにくく、滑りにくい床材を選定することが重要です。
スリッパ・土足に向いているクリニックとは?

スリッパ・土足ともに、どちらがおすすめというものでもなく、どちらが悪いというものでもありません。
開業するクリニックの診療科目やコンセプトによって、次のように向き不向きは変わってきます。
設計業者とよく相談して判断するといいでしょう。
スリッパに向いているクリニック
院内感染のリスクを極限までなくしたい場合や、清潔感を重視するクリニックには、スリッパに履き替えるクリニックが合っています。
例えば、次のような診療科や物件状態の場合はスリッパの方が適していることが多いです。
| 美容皮膚科 | 床の清潔感の高さが求められる。 |
| 美容外科 | 高級感を演出したい場合などはスリッパも検討の余地がある。 |
| 精神科・心療内科 | 患者さんが待合室でリラックスしやすい。 |
| リハビリテーション科 | マット運動など、床に近い位置でのリハビリが多い場合は清潔感が求められる。ただし、松葉杖、車椅子の患者さんも多く、土足も要検討。 |
| 住宅街の戸建て・郊外型クリニック | 比較的スペースに余裕があり、「玄関で靴を脱ぐ」習慣の方が馴染みやすい。公園や未舗装地が多い場合は、特にスリッパが向いている。 |
しかし、患者さんの属性や立地によっても変わってくるので一概には言えません。
上記のような診療科でも土足のクリニックは多いので、柔軟に検討が必要です。
土足に向いているクリニック
近年のクリニック開業の傾向としては、土足を採用するクリニックが増えています。
以前と違って道路が舗装されており、汚れた靴で来院する患者さんが減ったことや、汚れに強い床材が普及してきたことが背景と思われます。
特に、次のような診療科や立地は、土足に向いていることが多いです。
| 小児科 | ベビーカーの親子が来院しやすい。ただし、子供が床で遊んだり、ハイハイしたりする可能性があり、キッズスペースのみ靴を脱ぐ仕様にするなどの工夫が求められる。 |
| 整形外科 | 松葉杖、車椅子、足腰の痛みを抱える患者さんの負担軽減になる。 |
| 内科・眼科・耳鼻咽喉科 | 回転率が高いクリニックの場合は土足の方が適切。特に高齢者が多い場合は負担がない土足の方が向いている。 |
| テナント物件・医療モール内クリニック | 共用部からそのまま入る動線が一般的であり、スペース効率も求められる。 |
もちろん、上記のようなクリニックでもスリッパの方が適していることがあります。
ただ、内装を設計する際、スペースに余裕があまりない場合は土足の方が向いていることが多いです。
【まとめ】診療科目や患者さんの属性、治療方針に合った選択をする
「スリッパか、土足か」という選択肢に正解はなく、クリニックの診療科目や患者さんの属性によって適性は変わってきます。
近年は汚れに強い床材が増えたことで、土足のクリニックが増えてきましたが、地域の慣習や物件の条件によっても判断は変わります。
専門の内装業者とよく相談したうえで、慎重に決定するといいでしょう。
税理士法人テラス、テラスグループでは、経験豊富な税理士、社労士、行政書士、ファイナンシャルプランナー、事業用物件の専門家などが結集してワンストップで医院開業支援を行っています。
医院開業準備における税務・労務・法務業務のすべてをワンストップで進めることができますので、ぜひご相談ください。




監修者
笠浪 真
税理士法人テラス 代表税理士
税理士・行政書士
MBA | 慶應義塾大学大学院 医療マネジメント専攻 修士号
1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢52人(令和3年10月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。
医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。
医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。


