増える外国人の医療費未払い|医療機関が実施したい7つの対応策


訪日外国人観光客(インバウンド)や在留外国人の増加に伴い、多くの病院やクリニックで外国人の医療費未払いが課題になっています。
実際、都立病院だけでも、外国人医療費の未収金が令和6年度で1.7億円、令和5年度で1.5億円にのぼっています。
外国人の場合は、言葉の壁や保険制度の違い、あるいは帰国されてしまうことによる回収不能リスクなど、日本人の医療費未払いとは違う対応の難しさがあります。
また、医療機関には応召義務があるため、相手が外国人であっても基本的には診療拒否はできません(著しく文化や言語の違いがあり診療が困難な場合を除く)。
そこで、今回は外国人の医療費未払い問題に関する対応策についてお伝えします。
外国人の医療費未払いに関する7つの対応策

外国人の医療費未払いが発生する要因は、大きく分けると次の4つが考えられます。
①支払い能力がない
②支払う意思がない
③医療費の支払い方がわからない
④医療制度の違いやすぐに帰国する等の事情で支払えない
①②については、日本人でも同様の問題が起こっていますが、③④は外国人患者特有の事情によるものです。
また、③④については以下にお伝えする対応策によって、未払い防止に大きな効果が期待できます。
それでも、万が一医療費の未払いが発生した際は、自治体が提供している補填制度がないか確認するようにしましょう。
外国人の医療費の支払いについては、厚生労働省「受付で使える訪日外国人受診者対応簡易手順書」も参考にしてください。
外国人患者の医療費未払いを補填する制度を利用する
万が一、外国人の医療費が回収困難となった場合、お住まいの自治体に未払い医療費の補填制度がないか確認しましょう。
例えば、東京都には「外国人未払医療費補てん事業」を実施しており、対象となる外国人の未収医療費について最大200万円が補填されます(2025年12月現在)。
医療費の未払い問題が深刻化しており、対策を強化している政府の方針・現状を鑑みると、今後も補填制度は継続される可能性が高いと考えられます。
多様な支払い方法を用意しておく
外国人患者さんのうち、特に旅行者の場合は、多額の日本円の現金を持ち歩いていないことが一般的です。
そのため、クレジットカードや銀聯カード(UnionPay)など、多様な支払い方法を検討しておくといいでしょう。
ただ、キャッシュレス決済の場合、特に銀聯カードは手数料が高くなることがあるので注意が必要です。
基本的には現金払いを優先して、どうしても支払いができない場合は銀聯カードで対応する対応する運用にするのも一つの手です。
また、自院の支払い方法を周知することも重要です。
・日本円の支払いのみ対応なのか、それとも外貨は可能なのか
・近隣で外貨の引き出しが可能なATMはどこにあるか
・クレジットカードや銀聯カードは対応可能か
・利用可能な電子マネーはあるか
といったことを周知することで、スムーズに受付ができて、医療費の未払いも起こりにくくなります。
外国語で支払い方法やルールを公開する
事前に未払いのトラブルを避けるために、院内掲示やホームページなどで、支払い方法やルールを外国語で公開しましょう。
来院前の外国人患者さんに知らせておくことで、「この医院は支払いができないのか」と別の医療機関を探すといったことができます。
また、支払い方法などを公開しているという事実が、揉め事になった場合に有利に働く可能性があります。
できれば、英語だけでなく、中国語や韓国語など、自院の属性に合わせて多言語で周知するようにしましょう。
タブレット端末の翻訳アプリや、指差し会話シートを常備しておくのも有効です。
デポジット制度を採用する
外国人患者さんに限り、受付時に預かり金を受け取るデポジット制度を採用することで、未払いを防止しやすくなります。
①受付時に、概算医療費に相当する金額を現金またはクレジットカードの仮決済で預かる。
②会計時に実際の医療費との差額を返金または追加請求をする。
デポジット制度までいかなくても、医療費の概算だけでも提示しておくといいでしょう。
医療費の概算や支払い方法を提示することで、外国人患者さんは支払えるかどうか判断できるからです。
また、医師や医療機関ごとに医療費が大きく違う国もあり、医療費について細かく確認したり、価格交渉したりする外国人患者さんもいます。
日本の医療機関では、会計で初めて医療費を知ることが多いですが、海外では事前提示が一般的であり、料金を確認してくる外国人患者さんも少なくありません。
そのため、あらかじめ医療費の概算を示すことで、医療費の未払いや揉め事を防ぐことができます。
高額な費用が予想される場合は、外国人患者さんにクレジットカードの利用限度額を確認するようにしてください。
海外保険会社から自院に直接支払われるかどうかを確認する
多くの外国人旅行者は海外旅行保険に加入していますが、日本の医療機関でキャッシュレス受診ができるかどうかの確認が必要です。
保険会社から医療機関へ直接医療費が支払われることで、未回収リスクがほとんどなくなります。
ただ、場合によっては患者さん本人による立替払いのケースなど、未払いが発生することがあるので注意してください。
受付時に本人情報やクレジットカード情報を確認しておく
本人情報(パスポートや在留カードなど)の確認は身元や連絡先の確保のために、クレジットカード情報の確認は支払い能力の担保として、それぞれ重要です。
例えば、日本の公的な保険証を持っていない旅行者に対しては、パスポートの提示は必須です。
医療費の未払いが発生したら、旅行者の国への情報提供ができます。
必要に応じて、同行者や関係するツアー会社の情報も得ておくようにしましょう。
診療申込書を用意して外国人患者に記入してもらう

厚生労働省は、上図のような多言語の診療申込書のフォーマットを公開しています。
この診療申込書を準備して、外国人患者さんにしっかり記入してもらうようにしましょう。
外国人の医療費未払い問題の現状

外国人の医療費未払い問題が年々深刻化している状況で、国は対策を厳格化しています。
具体的なデータや政府の動きを通して、外国人の医療費未払い問題の現状についてお伝えします。
外国人の医療費未払いの総額が都立病院だけで1.7億円
東京都立病院機構が運営する14の都立病院で、令和6年度の外国人患者による医療費未払い額が約1.7億円にのぼったことが報じられています。
前年の1.5億円から増加傾向にあり、現場の努力だけでは回収しきれない現状が浮き彫りになっています。
外国人の医療費未払いは、民間病院でも見られ、未払い分を補填するために公金が投入されているケースもあり、社会的な問題になっています。
政府がインバウンドの医療費未払い対策の厳格化を検討中
外国人の医療費未払いの問題を受けて、政府は対策を厳格化する方針を固めています。
これまで、医療費未払いによる入国審査の厳格化の対象は「未払い額20万円以上」とされていました。
しかし2026年度から、政府はこれを「1万円以上」へと大幅に引き下げる方向で調整に入っています。
つまり、1万円以上の医療費未払いがある外国人は、再入国を拒否されるという、強い抑止力を持つことになります。
そのため、医療機関側としても、未払いに関する情報を適切に提供する体制が必要になってくるでしょう。

なお、厚生労働省は、すでに医療費未払いの外国人の入国審査厳格化を周知する医療機関向けのポスターを公開しています。
現時点でも医療費未払いの厳格化につながるので、院内に掲示しておくといいでしょう。
医療費未払いの外国人の情報提供の方法や、入国審査厳格化のポスターについては、以下の厚生労働省のサイトを確認してください。
⇒⇒⇒厚生労働省「【医療機関向け情報】訪日外国人受診者による医療費不払い防止のための支援資料の紹介及び不払い情報報告システムへの協力の御願いについて」
【まとめ】外国人の医療費未払いは事前に防げることがある
以上、外国人の医療費未払いの対応策についてお伝えしました。
・受付時の確認などで、外国人の医療費未払いを事前に防ぐ
・外国人の医療費未払いに対する補填制度がないか自治体に確認する
・外国人の医療費未払いに対して厚生労働省に情報提供する
外国人の医療費未払いは、日本人とは違う特徴があり、対応策も違ってきます。
ただ、受付時の対応を変えることで、ある程度は外国人の医療費未払いを防ぐことができるでしょう。
なお、日本人の医療費未払いの対策については、以下の記事をご覧ください。
最後までご覧いただきありがとうございました。


監修者
笠浪 真
税理士法人テラス 代表税理士
税理士・行政書士
MBA | 慶應義塾大学大学院 医療マネジメント専攻 修士号
1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢52人(令和3年10月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。
医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。
医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。


