産婦人科・婦人科のアフターピル(緊急避妊薬)のオンライン診療の重要ポイント
欧米に比べて日本ではまだまだ導入が遅れているオンライン診療ですが、比較的ピル処方は普及しています。
ピル処方には、主に性行為前のピル(低用量ピルなど)と、性行為後72時間以内に服用する必要のあるアフターピル(緊急避妊薬)に分けられます。
特にアフターピルについては、「オンライン診療の適切な実施に関する指針」で、アフターピルに特化した記載があります。
そこで、今回はアフターピルを中心に、産婦人科・婦人科の先生のオンライン診療のポイントを解説します。
「オンライン診療の適切な実施に関する指針」アフターピルに関する内容
まずは、「オンライン診療の適切な実施に関する指針」でアフターピルに特化した点を解説します。
「オンライン診療の適切な実施に関する指針」アフターピルに特化した記載
「オンライン診療の適切な実施に関する指針」で、アフターピル処方に関する記載は次の通りです。
緊急避妊に係る診療については、緊急避妊を要するが対面診療が可能な医療機関等に係る適切な情報を有しない女性に対し、女性の健康に関する相談窓口等(女性健康支援センター、婦人相談所、性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターを含む。)において、対面診療が可能な医療機関のリスト等を用いて受診可能な医療機関を紹介することとし、その上で直接の対面診療を受診することとする。
例外として、地理的要因がある場合、女性の健康に関する相談窓口等に所属する又はこうした相談窓口等と連携している医師が女性の心理的な状態にかんがみて対面診療が困難であると判断した場合においては、産婦人科医又は厚生労働省が指定する研修を受講した医師が、初診からオンライン診療を行うことは許容され得る。
ただし、初診からオンライン診療を行う医師は一錠のみの院外処方を行うこととし、受診した女性は薬局において研修を受けた薬剤師による調剤を受け、薬剤師の面前で内服することとする。
その際、医師と薬剤師はより確実な避妊法について適切に説明を行うこと。
加えて、内服した女性が避妊の成否等を確認できるよう、産婦人科医による直接の対面診療を約三週間後に受診することを確実に担保することにより、初診からオンライン診療を行う医師は確実なフォローアップを行うこととする。注 オンライン診療を行う医師は、対面診療を医療機関で行うことができないか、再度確認すること。また、オンライン診療による緊急避妊薬の処方を希望した女性が性被害を受けた可能性がある場合は、十分に女性の心理面や社会的状況にかんがみながら、警察への相談を促すこと(18 歳未満の女性が受けた可能性がある性被害が児童虐待に当たると思われる場合には児童相談所へ通告すること)、性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター等を紹介すること等により、適切な支援につなげること。
さらに、事前に研修等を通じて、直接の対面診療による検体採取の必要性も含め、適切な対応方法について習得しておくこと。
なお、厚生労働省は、初診からのオンライン診療による緊急避妊薬の処方に係る実態調査を適宜行う。
また、研修を受講した医師及び薬剤師のリストを厚生労働省のホームページに掲載する。引用元:オンライン診療の適切な実施に関する指針
アフターピルの重要ポイント
「オンライン診療の適切な実施に関する指針」の記載から、オンライン診療によるアフターピル処方のポイントは次の通りです。
・初診からのオンライン診療によるアフターピル処方が可能であること(2019年7月~)。
・初診からのオンライン診療ができるのは、産婦人科専門医または厚生労働省が指定する研修を受講した医師である点
・厚生労働省が指定する研修を受講した医師や薬剤師の一覧は厚生労働省のホームページから確認できる
・初診からオンライン診療を行う医師は1錠のみ院外処方を行うことができる
・受診した女性は薬局において研修を受けた薬剤師による調剤を受け、薬剤師の面前で内服すること
・避妊を失敗することや異所性妊娠の存在等も想定し、3週間後の産婦人科受診の約束を確実に行う。
・性被害を受けた可能性があれば、警察への支援を促したり、ワンストップ支援センターなどを紹介したりする
・厚生労働省が適宜アフターピルに関する実態調査を行うこと
まとめると、初診の患者さんに対するアフターピルのオンライン診療の流れは以下のようになります。
- ① 厚労省のホームページで、緊急避妊におけるオンライン診療を行う医師、調剤可能な薬局を確認する
- ② 初診でオンライン診療を受診する
- ③ 薬局に行き、薬剤師の面前で服用すること
- ④ 3週間後に産婦人科の対面診療を行う
アフターピルは、産婦人科医でなくても処方できて、オンライン診療でも研修を受ければ産婦人科医でなくても初診で処方できます。
ただ、どちらにしても産婦人科の対面診療が必要となるという流れになります。
オンライン診療のアフターピル処方の懸念と適切な対応
アフターピルは比較的オンライン診療との相性がいいですが、次のような懸念が考えられ、問題点に対する適切な対応が求められます。
特にアフターピルの場合はデートレイプなどの性被害の可能性もあるので、患者さんの心理面や社会的状況でデリケートなところがあります。
アフターピルのオンライン診療の懸念と、適切な対応について以下に示します。
繰り返しアフターピル処方を求める利用者 | 内服の確認を徹底し、他の避妊方法の紹介や産婦人科受診勧奨を入念に行う |
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知識不足や緊急避妊の失敗する懸念 | 十分な知識を持った医師が説明を行い、近い産婦人科を紹介する等など3週間後の産婦人科受診の約束を取り付けること |
利用者が性被害を受けた可能性がある場合 | 最寄りの警察署への相談を促す。未成年の場合は、児童相談所に通報し、同時にカウンセリングを実施する |
転売等のリスク | 医師は1回分のみの処方を徹底し、薬局での薬剤師の面前で内服する |
※厚生労働省「オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会」資料をもとに作成
特に懸念されるのが、アフターピルを求める患者さんの知識面です。
開業医の先生のお話をうかがうと、具体的には次のことを患者さんに伝えることが重要とのことです。
・アフターピルは性行為から72時間以内に服用すること
・早く飲むほど避妊の効果が高いこと
・妊娠予防率は85%であり、100%でないこと
・副作用について十分説明すること
・2時間以内に嘔吐すれば再服用が必要になること
・月経が予定より1週間以上遅れる、薬を飲んで21日経っても整理が来ない場合は妊娠検査をすること
・すでに性行為から72時間以上経過している場合は産婦人科の対面診療を行うこと
・初診の3週間後に必ず産婦人科で対面診療を行うこと
オンライン診療のアフターピル処方のメリット
オンライン診療のアフターピル処方のメリットについて解説します。
他の診療のオンライン診療と同様に、「患者さんの通院の時間と手間が省ける」「医師の診療時間が短縮できる」というメリットはあります。
しかし、アフターピルの処方を求める患者さんは、性被害などデリケートな問題を抱えている可能性もあるので、上記の重要ポイントを守り慎重かつ迅速な対応が欠かせません。
本記事では、オンライン診療共通のメリットについては割愛し、アフターピル処方に特化したメリットについて解説します。
迅速な対応ができる
アフターピルは、性行為から72時間以内に服用しないと効果が期待できないため、迅速な対応が必要です。
しかし、場合によっては近くにアフターピルの処方を行っている病院やクリニックがない場合もあります。
その場合、処方が間に合わずに妊娠してしまうことになりかねません。
オンライン診療を組み合わせることによって、遠方の患者さんに対しても迅速な対応ができて、適切な対応を促すことができます。
また引っ越しなどでかかりつけ医と距離が遠くなった患者さんに対しても有効です。
患者さんの人目が気にならない
アフターピルは、非常にデリケートな問題を持った患者さんもいます。
背景にデリケートな問題があるほど、患者さんは産婦人科や婦人科の受診に抵抗を持つ傾向にあります。
精神科などの診療と同様、通っているところを人に見られたくないという心理も働きます。
オンライン診療を導入することによって、産婦人科・婦人科の受診に抵抗のある患者さんでも受診しやすくなります。
特にアフターピルはデリカートかつ迅速な対応が求められ、心理的な抵抗から患者さんが受診をためらって手遅れになりかねません。
ただ、「オンライン診療の適切な実施に関する指針」では、あくまで地理的要因や、患者さんの心理的状況から考えて例外的にアフターピルのオンライン診療を認めるものです。
そのため、オンライン診療と対面診療のどちらが適切かは、慎重な判断が求められます。
患者さんが医師の性別を選択できることもある
これはどちらかというと、患者さんや女性医師にとってのメリットになりますが、オンライン診療は地域などの限定的要素がありません。
産婦人科・婦人科の患者さん、特に緊急避妊に関しては男性医師よりも女性医師の方が安心感を持つ傾向にあります。
この点も、患者さんが迅速に行動し、安心して受診できる要素と言えます。
オンライン診療のアフターピル処方のデメリットや注意点
アフターピルのオンライン診療によるデメリットについて解説します。
先ほどお伝えしたように、アフターピルは、その性質上オンライン診療の制約もあるので、次のようなデメリットがあります。
初診では院外処方が1錠のみに限られる
オンライン診療では、不正な転売のリスクなどを防ぐために、様々な制約があり、そのなかの1つが初診で処方できるのは1錠のみという点です。
アフターピルは、低用量ピルのように毎日飲むものではありません。
基本は1回のみの処方ですが、服用後2時間以内に嘔吐してしまった場合は再服用が必要になります。
そのため、副作用の点や、再服用が必要となった場合についても十分説明することが求められます。
患者さんに十分な説明が必要となる
アフターピルの患者さんは、避妊に関する知識が不足している場合が多く、また心理的にもデリケートになっています。
そのため、正しい処方の仕方や副作用のことなど的確な情報提供と、3週間の対面診療の確約など説明を十分行う必要があります。
オンライン診療では、対面診療以上に十分な情報提供をすることが求められます。
【まとめ】オンライン診療のアフターピルは慎重かつ迅速に
以上、オンライン診療のアフターピル処方の重要ポイントを解説しました。
アフターピルは、その性質上、「オンライン診療の適切な実施に関する指針」で細かく指針が取り決められています。
デリケートな問題なので慎重な判断が必要な点と、迅速な対応が必要になります。
場合によっては、オンライン診療ではなく、対面診療を促す必要もあります。
オンライン診療については、以下の記事もご覧ください。
監修者
笠浪 真
税理士法人テラス 代表税理士
税理士・行政書士
MBA | 慶應義塾大学大学院 医療マネジメント専攻 修士号
1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢52人(令和3年10月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。
医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。
医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。