医師家庭が離婚する前に知っておきたい親権の話

公開日:2020年1月29日
更新日:2024年4月9日

離婚では、慰謝料、財産分与、養育費、婚姻費用分担請求といったお金の問題や、子供がいれば「どちらが親権を持つか」という話し合いが必要です。

なかには親権を持てないかもしれないということで離婚を躊躇することもあります。

医師家庭の場合、医師と専業主婦の夫婦など、経済力に大きな差が出てくることもありますが、親権と経済力は、どれほど関係があるのでしょうか?

今回は医師家庭の離婚のなかでも親権について詳しくお伝えします。

医師と離婚する専業主婦は親権を持てるか?

専業主婦が離婚を決意した場合、おそらく不安になるのが離婚後の経済力と親権です。

経済力がなく、親権が持てるかどうかを気にして、なかなか離婚に踏み切れないケースもあるそうです。

特に医師家庭など高年収世帯にも関わらず、専業主婦が精神的に耐えられずに離婚する場合、子を引き取ることは可能なのでしょうか?

親権は母親が持つことが多い

結論からお伝えすると、離婚した場合は基本的には親権は母親が持つことがほとんどです。

例え医師と専業主婦といった経済力に格差があった場合も同様です。

育児放棄している、家を飛び出して3年も父親が子供の面倒を見てきた、という場合は別ですが、経済力ではあまり覆りません。

これは、もし親権が持てるかどうかが不安で離婚を躊躇している母親にとっては安心材料と言って良いでしょう。

逆に言うと、子供に対して愛情が深い父親にとっては心配材料になります。

そのため父親が親権を得たいために「母親が育児放棄した」という実態と乖離した話をすることもあります。

ただ、離婚前の育児に関しては、離婚調停で調査されることがあります。

母親が親権を持つことが多い理由

母親が親権を持つことが多い理由は、裁判所は親権判断で次のような基準を持っているためです。

監護の継続性主に子どもを養育してきた親の監護を継続させる
母性優先乳幼児の場合は、母性的な役割を果たす親を優先させる
子どもの意思の尊重おおむね子が10歳以上の場合(15歳以上になると意思尊重が義務となる:家事審判規則54条)
兄弟姉妹の不分離兄弟姉妹は分けない
面会交流への寛容性他方の親と子どもが会う機会を設けているか
その他監護補助者の有無、経済力、監護の開始に違法性がないかなど

特に母親にとって有利になるのが「監護の継続性」と「母性優先」です。

特に裁判では「監護の継続性」が重視されますし、「母性優先」は子供がまだ乳幼児の場合はかなり重視されます。

つまり、子供がまだ小さい場合(だいたい10歳未満)は、母親が親権を持つことが大半で、父親にとっては不利になります。

父親がどんなに経済力があっても、子どもがまだ小さい場合は、親権を持つことは稀なケースになります。

しかし、先ほどもお伝えしたように、母親側に育児放棄や虐待など非があることが事実であれば、当然父親が親権を持つ可能性が高いです。

また、稀なことではありますが、母親が長年蒸発していたなど、長期間の育児実績が父親にあれば、父親が親権を持つ可能性が高くなります。

子供が大きい場合は父親が親権を持つ可能性も

子供が乳幼児だったり、小学生低学年だったりすれば、母親が親権を持つのが大半という話をしました。

しかし、子供が小学生4年生以上になってくると、話は変わってきます。このくらいの年頃の場合、子供の意思が尊重されることになるためです。

中学生くらいになると、将来の夢や進路を考える子供も出てきます。

医師家庭であれば、「自分も医者になりたい」「医学部に入りたい」「お父さんのクリニックで働きたい」という子供もいるでしょう。

そのような場合は、もしかしたら医師である父親についていきたいと考える子供もいるでしょう。

少なくとも、小学校中学年以上の子供が「お父さんについていく」と言えば、父親が親権を持つ可能性が高いでしょう。

親権と監護権を分離することも

裁判所で判断基準があると言っても、父親が譲らずに親権を主張することがあります。

話が平行線のままであっても、日本では離婚後の共同親権は認められていません。(欧米では多く導入されています)

稀ではありますが、このような場合は一つの落としどころとして親権と監護権を分離することがあります。

監護権とは、民法820条で定められている、子供と生活を共にし、その子供の世話や教育を行う権利・義務のことを言います。

親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。

引用元:民法820条 監護及び教育の権利義務

それでは親権と監護権の違いは何かというと、監護権は親権の中のひとつです。

日常的には親権という言葉が使われていますが、親権とは財産管理権と監護権(身上監護権)の2つを一括りにした言葉です。

つまり、親権と監護権の分離とは、大まかに言うと財産管理権と監護権の分離ということになります。

例えば監護権は母親にあるけど、親権は父親にあるというものです。子供と一緒に暮らしているのは母親だけど、親権は父親というパターンです。

医師家庭では、先ほどの「子供を医学部に入れたい」「母親が子供を育てるけど、将来父親のクリニックを継ぐ」というケースではあり得る話です。

しかし、親権と監護権の分離にはデメリットがあります。

それは子供と一緒に生活する監護権者からすれば、子供の財産や法律行為に関する手続きを行う都度、親権を持つ親に同意を得る必要があることです。

これはかなり大きな手間となることもあり、現実的には親権と監護権の分離が適用されるケースはそんなに多くありません。

兄弟姉妹は原則的に親権を分けない

なお、子供が1人ではなく、兄弟姉妹がいるような場合は、原則的に親権を分けるようなことはしません。

これは、兄弟姉妹はなるべく一緒に生活する方が好ましいと考えられているためです。

親権を決める3つのステップ

離婚届が受理されるには、親権者が誰かを決めないといけません。

親権の決め方は、主に次の3つのステップを経ることになりますが、多くは裁判離婚で決まります。

【STEP1】協議離婚

協議離婚とは、夫婦の話し合いによってどちらが親権を持つか決めることを言います。

これで決まらなければ、下記の離婚調停に進みます。

【STEP2】離婚調停

夫婦の話し合いで親権が決まらなければ、離婚調停で、裁判官を交えて話し合いをします。

ただし、離婚調停の段階では、夫婦の合意がなければ親権は成立しないので、多くの場合は離婚裁判となります。

【STEP3】離婚訴訟

離婚訴訟では、裁判官が親権を決めることになります。

上記の親権判断の基準などで親権が決まります。

夫婦間で親権が合意となるケースは少なく、多くの場合は裁判所で決定されることになります。

親権や監護権は変更できるのか?

離婚時に決定した親権や監護権については、家庭裁判所に申し立てれば変更することも可能です。

ただ、これは元夫と元妻の間で合意を得られたとしても、それだけで家庭裁判所は変更を認めません。

子供にとって本当に有益となる判断を下すため、必ず家庭裁判所調査官による家庭訪問、そして父母・子供との面会が行われます。

また、裁判所では一度決定した親権者を変えるべきではないというのが主流になっており、変更が認められないケースは想像以上に多いと言われています。

面会交流を一方的に拒否するのはタブー

母親が親権を持った場合に注意したいことがあります。

それは「あなたに子供を会わせたくない」と面会交流を一方的に拒否することは基本的にタブーである点です。

もちろん、子供を持ち去る恐れがある、子供を虐待する恐れがある、子供が強く拒絶しているという理由があれば話は別です。

このようなリスクがない場合、母親の一方的な都合で面会交流を一方的に拒否することはおすすめできません。

養育費の支払いで揉める可能性が高くなる

なぜ面会交流の拒否がおすすめできないかというと、まず養育費の支払いの面で揉める可能性が高まるためです。

親権を持たない父親にとって、子供に会わせてもらえないのであれば、子供に対して愛着を抱くことはできません。

そのような状態で、「養育費は払え!」と言っても、当然親権を持たない者は養育費を支払う気は起きません。

養育費はずっと支払わされているのに、もう何年も子供に会わせてもらえない!

これで納得できる人はほとんどいないでしょう。

この場合の母親の言い分として、よく見られるケースが「子供が不安定になるから」「子供が会いたがらない」というものです。

これが本当であれば、先のように面会交流を拒否できる正当な理由となります。

しかし実態としては、この「お父さんに会いたがらない」は子供の本音ではないケースが多いのです。

「お母さんのことを考えるとお父さんに会いづらい」
「お母さんがお父さんに会ってほしくないと言っているから会えない」

という、母親を気遣って「お父さんに会いたがらない」と言っているケースが非常に見受けられます。

もし、子供が実は父親に会いたがっている、父親に会っても構わないということであれば、面会交流は拒否するべきではありません。

面会交流を拒否すると、次のようなリスクが発生します。

・家庭裁判所に履行勧告される
・間接強制される(制裁金の支払いを命じられる)
・損害賠償請求をされる
・親権者の変更がされる

親権者の決定は、面会交流を前提として行われるので、面会交流を一方的に拒否しては、最悪親権者を変更されることはあり得ます。

そもそも、会いたいのに会わせてもらえないというのは、子供にとって幸せなことではありません。

それに加えて元夫から養育費の支払いが止まってしまうことも考えられます。むしろ養育費の減額を要求されて離婚調停を起こされる可能性もあるでしょう。

余程のことがなければ、子供の幸せのためにも、養育費を支払ってもらうためにも、非親権者に会わせることをおすすめします。

ただし、万が一非親権者から養育費の支払いが滞った場合、勤務先の給料を差し押さえたりすることも可能です。

特に医師の場合は、勤務先の病院やクリニックの情報はすぐに判明するでしょう。この場合、勤務先が不明で回収できないようなことは、ほとんどあり得ないと思われます。

面会交流を拒否できるケース

先程もお伝えしたように、面会交流を拒否できるケースがあります。具体的には、次の具体的な根拠があるような場合です。

・子供を連れ去る恐れがある
・子供を虐待する恐れがある
・子供が本当に強く拒絶している
・面会交流時の約束事を守らない

このような場合は、むしろ親権者である母親や子供に身の危険が迫っているとも言えますから、基本的に面会させてはいけないでしょう。

ただし、この場合は事実確認をして、証拠に基づいて立証することが求められます。

例えば、子供の虐待であれば、子供のケガの写真や診断書、警察や医師などに相談した記録などです。

ただ、面会交流中に非親権者である父親が母親を刺し殺す事件なども発生しているのも事実です。

危険性が高い場合は、警察や弁護士に相談し、早急に対応しましょう。

【まとめ】親権の判断基準を知っておこう

親権判断については、裁判所が一定の判断基準を持っています。

これによれば、子供が小さい場合は基本的に母親が親権を持つことが多く、子供が大きければ、子供の意思に委ねられます。

親権を持った母親が注意したいのは、虐待などの身の危険がない限りは、面会交流を拒否すべきではないという点です。

離婚の場合、残された子供はとても複雑な気持ちです。余程問題がなければ、基本的には子供は非親権者(父親)と会いたがるでしょう。

子供にとって幸せであれば、会わせるべきですし、その方が父親も納得して養育費を支払ってくれます。

特に医師の場合は年収が高いので、養育費も高額になる傾向があります。なので、余程お子さんの方から「会いたくない」という話にならなければ、会わせて問題ないでしょう。

なお、親権などの離婚問題についての詳細は、最寄りの弁護士に相談するようにしてください。

医師の離婚については、以下の記事もご覧ください。

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笠浪 真

1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢52人(令和3年10月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。

医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。

医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。

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