小児科クリニックの現状と財務・経営戦略

公開日:2019年9月7日
更新日:2024年3月18日

はじめに

近年は小児科の数も減っているようです。全国の小児科の数は22000院ほどと平成20年ごろの25000院と比較しても10%以上減っています。この傾向は平成時代になってからずっと続いています。

小児科の減少の原因は子供の数の減少、小児科医の激務などから小児科医を目指す方が単純に減ってその結果病院の数も減っているのかなと思われます。

小児科医の年収は開業医で2800万円から3000万円程度、勤務医で1600万円程度から1800万円程度と言われています。世間一般のサラリーマンで働いている方と高めで内科医などよりも高めの傾向になっています。これも医師の数の少なさと小児科医の仕事の忙しさとは無関係ではない気がします。

単純に子供の数が減れば病院間の淘汰合戦が始まりますのでどこかの病院や診療所は生き残れなくなります。ただ小児科という特性上親もしくは祖父母の方がちょっとした風邪でも子供を病院に連れていきます。ということもあってある一定のニーズが小児科にはあるということは疑いがありません。

小児科の病院や医院は今後も減っていくのではないかと思われますが、小児科医の年収はある程度高いところで保たれるのではないかと思われます。

患者数

小児科1診療所あたりの平均患者数は1日あたり55名から60名程度になっています。診療所によってこの値を大きく超えるところ・全く届かないところが出てきます。ただ地域的に見ていくとだいたいこのあたりの数字に落ち着いているところがほとんどとなっています。

一般に寒い季節ほど患者数が増えて暖かい季節ほど患者数が減ります。寒い季節になるとインフルエンザの予防接種なども含めて多くの患者さんが来ます。夏は風邪を引きにくくなることもあって小児科の来院数は全体的に少なくなります。

また夏休み・冬休みなどの時期に入ってくると小児科の患者さんは減る傾向にあります。園児や小中学生などのお子さんが学校に行かなくなることで風邪を移されなくなります。この点から学校に行かないということで風邪をひきにくくなって小児科に行く患者数が減ることは分かってきました。

さらにお子さんの場合はあまり学校に行きたくないという理由から小さいことで診療を希望する生徒も出てきそうな気がします。嫌いな学校行事がある・嫌いな授業があるなどの理由で学校を休みたくなる心理も分かる気がします。この辺りも休みになると患者数が減るということに関係しているのかなという気がします。

ちなみに内科の1診療所・1日あたりの来院数も平均するとだいたい60名前後と小児科とあまり変わらないというデータがそろっています。大病院は別として医師数名程度の診療所やクリニックだと1日の患者数が60名程度・月1300名程度が経営をしていくための目安になってくるのかなと思われます。

病院は一般に日祝は休み・土曜午後休診・他に週の中間の木曜あたりを休診にしているところもあります。おおよそ週5日程度の診療を行っているということを考えていくと月に換算すると22日弱になりますのでだいたいこの程度の数字になってきます。

小児科に大人?

小児科は小中学生くらいまでのお子さんしかかかることができないのかなと思っていたのですがそうでもありません。小児科でも全体の数%程度は大人の患者がかかっています。これはどうも引率の母親や祖父母などの方が一緒に受診をしてしまうこともあります。また地方などに行くと一般病院が近くになく小児科が近くにあるなどの理由で年配の方が小児科にかかってしまうこともあるようです。

小児科だからといって乳幼児・小中学生のようなお子さんしかかかることができないというわけではありません。家族の方が病気になってしまうのはとてもマイナスになってしまいます。また家族の方の診療も一緒にしていくことで病院側にも収益が入りますので双方にメリットが出てきます。

保険診療と自由診療

小児科にも高熱が出た・お腹が痛いなどの病気に対しての処置をしていく保険診療と予防接種や乳幼児健診などの自由診療の部分があります。一般に規模の大きい病院ほど自由診療の割合が高くなります。

地域の大病院になると3割程度の収入が自由診療になっているところもあります。ただ個人医が行っているクリニックになってしまうと自由診療の割合は5%から8%程度とだいぶ少なくなります。それだけ大病院は小児科検診というものに力を入れていることが分かってきました。
検診は自由診療ということもあって病院側の収益はそれなりに期待できます。

小児科の収入

収入=患者数×客単価に診療報酬の点数が比例してきます。在宅医療を志す方はそれなりにいます。ただそれを超える数の高齢者がいます。患者数は高齢化社会で増えていきます。患者数が1割増えても競合が年間数%程度増えていきます。さらにクリニックの場合は客単価が稼げません。さらに診療報酬が数%程度減少します。こうなってくると収入を維持するのは大変になります。

小児科の診療所の場合は月平均の患者数を1300・客単価が5000円程度になっています。そうなってくると診療所に入ってくる1年の収入は5000円×1300名×12か月=7800万円程度になります。小規模なところほど保険診療の割合が高く大きな規模の医院ほど自由診療の割合が高くなります。

またお子さんは乳幼児が2割負担で小学生以上が3割負担になります。小児科にかかるお子さんの数を乳幼児:小中学生を半々程度と考えていくと患者さんの負担が25%・診療報酬から75%になります。さらに
自由診療の割合の割合を重ねていくと比較的大きな診療所になってくると診療報酬の収入が6割程度・小さな個人クリニックのようなところだと7割近くなってくるのかなという感じがします。

小児科の経費

今までは収益の面でみてきました。今度は医療スタッフや設備などのコストの面を考えていきます。

まず小児科クリニックなどを経営するには建物が必要です。建物を買うか・借りるか。またその費用を一発現金で払うか・ローンで払うかという問題が出てきます。そこで購入・一発現金以外の場合は毎月の建物のローンが発生します。このローンの額は地方・都市部。駅近く・郊外などによってかなりのばらつきが出ます。おそらく最低でも月10数万円・高いところは100万円近くになってもおかしくはありません。また小児科になってくると待合室や入口をお子さんが入りやすくするための工夫をする必要があります。部屋数も多くかかりますので他の科よりも建物にかかるコストは高くなってきます。

また人員面でも看護師などのスタッフを確保する必要があります。事務員さんなどは奥さんや身内の方に手伝ってもらうことも可能ですがそれでも多少の人件費はかかってしまいます。いずれにしても固定費もそう簡単には減らせません。この収入が減る・固定費が変わらないというところが病院・診療所経営の難しいところでもあります。

収益=収入ーコストで計算できます。前年度の収入が年間7800万円・固定費などのコストが6000万円であれば7800‐6000=1800万円手元に残ります。

小児科の場合は安定している医院では収入はあまり変わりません。コストは人件費は看護師の求人でお金がかかるかもしれません。建物のローンが徐々に上がる可能性があります。備品のローンの返済が順調であればあまり問題はないのですがここを減らせないと難しくなります。

ただ競合する病院や診療所の数は減っています。この点からも小児科の経営に関しては他の科に比較しても比較的順調なところが多いのではないかなという気がします。

役割分担

小さい規模の小児科の場合はお子さんのすべての病気の診療をするということができなくなります。たしかにお子さんでもまれにかかってしまうがん・心臓病などの大きな病気になってしまうと小児科医院などでは対処ができません。

そこまでではなくても小児科・それぞれの医師にとっても得意分野・不得意分野があります。このようなケースで他の医院との連携がしっかりと取れているかもご家族の信頼につながってきます。お子さんの病気というと引率者のご家族もナーバスになることが予想されます。そのような時に信頼できる病院を紹介できるかなども小児科医の腕になります。意外に重要なところかもしれません。

引率者との信頼関係

小児科はお子さん1人だけで来ることはあまりありません。母親・父親・祖父母・叔父叔母などの親族の方が一緒に来ることが多いです。お子さんの体調が悪くなると親は心配になります。先生に不安をぶつけてくるご家族の方もいます。そのような患者さんへの対応をどうしていくか。

また小さいお子さんが病気になってしまうと親などの家族も移されてしまうなどのことがよくあります。インフルエンザなどがその一例です。特に仕事をしている母親などはお子さんの病気を移されることをとても嫌がります。そのような患者さんとのやり取りも大事になります。

さらに子供の病気を理由に仕事を休む・出勤を数時間遅らせるという親も出てきます。ただ日本企業の場合はお子さんが病気になっても仕事を休めるような時ばかりではありません。また小児科なので個々のお子さんの診療時間は長めになります。

このあたりが働くママさんからの課題になっています。祖父母の近くに住んでお子さんを預ける・託児所などに預けるなどの方法を採れればいいのですが、前者の場合は必ずしも夫の職場の関係などもあって近くに住めない方もいます。後者の場合はそもそも他のお子さんに移してしまうリスクがありますので体調の良くないお子さんを施設は預かりたがりません。

また小児科の場合は小学生のお兄さんが病気になってしまっても園児の弟さんは元気なケースもあります。家族の事情によって弟さんを病院に連れてくる必要も出てきます。そこで弟さんに病気が移ってしまうこともあります。そのようなストレスをご家族の方が抱えてしまうこともあります。

小児科の場合はお子さんの対応だけでなくお母さまなどのご家族の方への対応が重要になってきます。

小児科クリニックのデータ作成

 A医院(分業)
実患者数1374
延患者数3297
請求点数 
平均来院回数2.399
診療単価 
レセ単価 
初診料276(20.0%)
初診:機能強化加算2
初診:乳幼児夜間加算6
初診:夜間・早朝等加算8
初診:乳幼児加算120
初診:妊婦加算8
再診料823
同日再診料2
電話等再診8
再診:乳幼児夜間加算2
再診:夜間・早朝加算1
再診:休日加算4
再診:乳幼児加算432
再診:妊婦加算2
時間外対応加算1 
時間外対応加算28
明細書発行体制加算3
地域包括診療加算1 
地域包括診療加算2 
認知症地域包括診療加算1 
認知症地域包括診療加算2 
外来管理加算854
調剤技術基本料 
血液学的検査判断料48
免疫学的検査判断料108
尿・糞便等検査判断料25
微生物学的検査判断料100
生化学的検査判断料18
呼吸機能検査等判断料182
外来迅速検査加算7
単純撮影18
CT撮影 
超音波検査 
胃・十二指腸ファイバースコピー 
骨塩定量検査 
心電図 
負荷心電図 

笠浪 真

1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢52人(令和3年10月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。

医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。

医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。

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