歯科クリニックの現状と財務・経営戦略
はじめに
歯科医院(クリニック)の数は日本中におよそ7万弱ほどとかなり多くなっています。その中の85%程度の6万院が個人医の歯科となっています。これはコンビニの総数の5万5000店よりもだいぶ多くなっています。歯科医院の数がコンビニよりも多くなっているのはだいぶ前の話です。
実際に歯科医の開業医の年収は平均すると1300万円から1400万円程度と言われています。ただその中でも年収250万円以下の方が2割ほどいます。さらに年収500万円以下の方も3名に1名以上いる状況になっています。明らかに他の科の開業医よりも年収の低い方が多くなっています。これも歯科医院の数が多くなっているところから来る過当競争の状態から来ていることが予想されます。
今後も歯科医師になりたい方は増加すると思われますので歯科医院の数も増えていくことが予想されます。この状況は今後もしばらくは続くのではないかと予想されます。
1日25名は確保したい
歯科の患者数は1院あたりの平均でだいたい1日23名(月470名程度)で月350万円程度と言われています。1日1人あたり7500円程度(自己負担2000円程度)という感じになっています。歯科のコストはだいたい年2500万円から3000万円程度のところが多くなっています。ここからすると歯科では患者数が1日25名程度(月500名程度)は確保できないと採算がとりにくい状況になってしまうので経営が厳しくなってしまう気がします。
人材確保が困難
歯科の開院には競合の多さから来る収入や収益の低さも問題になります。ただそれと同じくらい悩むのが歯科衛生士や歯科助手などのスタッフの確保です。歯科衛生士は100の求人に対して40程度の応募しかなく慢性的な人不足の状態が続いています。
看護師になりたいという方はそれなりに出てきましたが歯科衛生士になりたいという方はそこまで多くないのかもしれません。歯科医院だと仕事の割には収入が低いなどの問題もありそうなので一朝一夕で問題が解決するとは思えません。地方も人材確保の困難さはあるもこの問題は都市部のクリニックの方が大きいのかもしれません。いずれにしてもこの問題はもう20年以上も前から解決の見えない問題です。おそらく今後も人材の問題には頭を痛めるクリニックが多くなるのかなという気はします。
歯科の診療領域
歯科の診療領域としては歯肉炎などの歯周病・インプラント・審美・補綴・義歯・ホワイトニング・予防歯科・口臭・歯科矯正などの治療を行います。また口腔の炎症などの治療を行うところもあります。歯の部分や口の部分などの治療を行います。
歯科の診治療に時間がかかる
歯科医院の1日1院あたりの患者数は20名から25名程度のところが多くなっています。内科のおおよそ半分、耳鼻咽喉科や皮膚科の3分の1程度となっています。歯科は1人あたりの治療時間が15分から20分程度、場合によっては30分以上かかる場合があります。普通に行くと1時間に3・4名程度しか治療できません。治療時間がかかるのが歯科の治療の大きな悩みとなっています。
歯科の自由診療
歯科の自由診療に該当するものはインプラント・歯科矯正・ホワイトニング・義歯などがあります。料金はホワイトニングは1万円から数万円程度、義歯が10万円から50万円程度、インプラントは10万円から20万円、歯科矯正は80万円から120万円程度となっています。歯科矯正や義歯は多くの収入が入ることが期待できます。ホワイトニングは1回きれいに歯を磨けばいいので単価的にはいいのかもしれません。
経営的にはどうか?
数字的なところから見ていくと歯科クリニックは経営的に苦しいところが4・5院に1院程度ありそうです。首都圏などの都市部ではもう少し苦しいところが多いのかなという気がします。歯科医院の現状の流れを見ていくと今後もこのような状態が続いていくのかなと思われます。
歯科の収入
収入=患者数×客単価に診療報酬の点数が比例してきます。
歯科クリニックの場合は月平均の患者数を470人・客単価が7500円程度になっています。そうなってくると診療所に入ってくる1年の収入は7500円×470人×12か月=4230万円程度になります。歯科では3000万円程度かかるであろう年間の経費を引いても1200万円程度の利益は少なくても手元に残りそうです。
この収益は医師自身の収入といっても過言ではありません。やはり歯科クリニックの収入は他の科の半分程度しかないということも分かってきました。これも平均の値なので半数程度のクリニックはこれよりも下回っている可能性が高いということが予想されます。
歯科の経費
今までは収益の面でみてきました。今度は医療スタッフや設備などのコストの面を考えていきます。
まず歯科クリニックなどを経営するには建物が必要です。建物を買うか・借りるか。またその費用を一発現金で払うか・ローンで払うかという問題が出てきます。そこで購入・一発現金以外の場合は毎月の建物のローンが発生します。このローンの額は地方・都市部。駅近く・郊外などによってかなりのばらつきが出ます。おそらく最低でも月20万円・都心部などの高いところでは100万円クラスの規模になってもおかしくはありません。
また人員面でも医師と歯科衛生士2名と歯科助手1名以上で3名以上いることが理想といえます。衛生士1名・助手1名では何かがあったやはり3名は必要なのかなという気がします。
事務員さんなどは奥さんや身内の方に手伝ってもらうことも可能ですがそれでも多少の人件費はかかってしまいます。いずれにしても固定費もそう簡単には減らせません。この収入が減る・固定費が変わらないというところがクリニック経営の難しいところでもあります。歯科はさらに競合が多く収入が入りにくいのでなおさら厳しさが増します。
建物・器具・人件費などでで歯科のコストはやはり2800万円程度はかかるといわれています。他の科よりも膨大にかかるというわけではないのですがそれでもかなりのコストがかかるのではないかと思われます。
収益=収入ーコストで計算できます。前年度の収入が年間4230万円・固定費などのコストが3000万円であれば4230万円‐2800万円=1430万円程度は手元に残ります。歯科の開業医の年収が平均で1400万円程度ですのでその値と大きく変わりません。
収入は競合が増えるので10年で50万円ほど減収、人件費も人手で苦労するも衛生士の昇給などで人件費は少しずつ高騰していくので10年で50万円程度の出費がさらにかかるものと計算します。
となると数年後には4180万円‐3050万円=1130万円になります。10年で100万円程度の減益になっていく可能性のある歯科クリニックが多くなっていくのかなという気がします。
歯科クリニックを開院することの是非
歯科は他の科に比較して収入・収益・利益も厳しくなります。歯科は競合も多く患者数を確保することが難しいクリニックも多くなります。また歯科は1人あたりの診療時間も長くなるので1日あたりに診ることのできる患者数も制限があります。
歯科医院数も以前ほどではないにしても増えています。同時に患者も同じくらい増えているので経営が良くなる・悪くなるところは半々くらいなのかなという気がします。ただ新規参入するところは本当に厳しいなという実感を受けます。
歯科医師は医師に比較して大学入試も易し目で入学しやすいです。歯科医師国家試験も努力すればそれなりには合格します。歯科医院の数は多いので給料に大きなこだわりを持たなければそれなりのところには就職ができるでしょう。
ただ歯科に関しては開院をするためのハードルは格段に高くなります。整形外科なども開院は難しい部類に入りますがそれ以上に難しくなります。
患者対応も重要
歯科医院は過当競争をしているので患者対応もかなり重要になります。歯科医師だけでなく歯科衛生士・歯科助手などのスタッフの方の対応も重要になります。その対応が悪ければすぐに隣のクリニックに行ってしまう可能性もあります。口コミや評判をとても意識する必要があります。
都市部のクリニックはこの面はできているところが多いのですが、地方の医院ではまだ古い体質のところで運営しているところも多く患者対応が雑になっているところも少なくありません。ネット時代になってくるとこの面での対応を地方のクリニックも行う必要が出てきますのでこの面は注意事項になります。
自由診療の歯科クリニックは稼いでいるところが多いです。ただ当然に自由診療のクリニックもこの患者対応というところも必要になります。できているところとできていないところがありますのでここで差が出ます。
いずれにしても歯科クリニックの新規の開院は競合も多く乱立状態なので容易ではありません。他のクリニックとの個性の違いを作るだけでも難しいものがあります。それでも開院をしたいという方は、財務・経営に強い税理士に相談されると良いでしょう。開院する際には税理士選びも重要なポイントになります。
監修者
笠浪 真
税理士法人テラス 代表税理士
税理士・行政書士
MBA | 慶應義塾大学大学院 医療マネジメント専攻 修士号
1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢52人(令和3年10月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。
医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。
医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。