整形外科クリニックの現状と財務・経営戦略

公開日:2019年8月29日
更新日:2024年3月18日

はじめに

整形外科の患者数は10年前に比べて5%から7%ほど減っているようです。高齢者が多くなるという予測のもとで整形外科の患者数は増えているのかなと思ったのですが意外にも減っていました。高齢者になるとさらに大きな病気を抱えていることが多く命に切実に関わってくる内科や脳神経外科に通う患者さんが増えてくるのかなという気がします。そうなってくると整形外科に通ってくる患者さんは優先的に減ってきます。

また整形外科となると小中高校生・大学生や社会人などのスポーツをする方も利用をすることが多くなります。近年この若者世代の数もどんどん減ってきています。単純に子どもや若者の絶対数が減ってくると整形外科に通ってくる患者さんも減ってくることは容易に想像できます。

これらから整形外科を利用する患者さんが徐々に減ってきているのかなという気がします。

最低でも60名

整形外科は患者数1日100名(月2200名程度)で月750万円程度と言われています。1日1人あたり3500円程度(自己負担1100円程度)ということですね。それが60名(月1300名程度)だと4500万円程度になります。整形外科のコストはだいたい年4500万円から5000万円程度なので最低限はこの程度の売上がないと経営が成り立たないということになります。

整形外科の場合は大きな手術が少ないうえに医師や看護師だけでなくリハビリスタッフの人件費がかなりかかります。数名を雇用すればそれだけで年間2000万円程度は出ていきます。施設面の充実なども考えていくと整形外科の経営は難しくなりつつあるというのが現実としてあります。

脳疾患のリハビリ算定

整形外科にとって重要な仕事の1つが脳疾患に罹ってしまった方のリハビリです。特に脳梗塞や脳出血などの脳卒中の後遺症に苦しむ方が多いです。後遺症には半身まひ・失語症・嚥下などです。これらの障害に対しての訓練を行っていく必要があります。

脳卒中のリハビリというのは整形外科にとっては患者さんの社会復帰を考えていく上でもとても大事なことです。脳血管疾患のリハビリの診療報酬の点数が上がるということもあって理学療法士・作業療法士・視能訓練士などのスタッフが必要になります。脳血管リハビリを行う病院では数名は必ず置かなければならない人材なのでコスト面でかなり厳しくなります。

ただそれを差し引いても脳血管リハビリをメインに置いていた医療機関及び整形外科医院の多くは増収・増益に展開したところがい多くなったようです。医療機関は良くも悪くも診療報酬に左右される面はあります。

自由診療


整形外科にも自由診療はあります。にんにく注射・ビタミン注射などの栄養源を打ち込んで元気にする・美肌をめざすためのコラーゲン注射・関節の痛みなどを緩和するブロック注射などがあります。整形外科もこうしてみると美容整形外科に近いような内容の治療も行っているということですね。

これらの注射の収入は保険の1.5倍から2倍程度と言われています。だいたい1本2000円から2500円くらいですかね。自由診療にウエイトをかなり置いている整形外科はそこそこ儲かりそうですが全体の診療のうちの1割程度だと一般診療を行っている整形外科と大差はなさそうです。

整形外科の収入

収入=患者数×客単価に診療報酬の点数が比例してきます。在宅医療を志す方はそれなりにいます。ただそれを超える数の高齢者がいます。患者数は高齢化社会で増えていきます。患者数が1割増えても競合が年間数%程度増えていきます。さらにクリニックの場合は客単価が稼げません。さらに診療報酬が数%程度減少します。こうなってくると収入を維持するのは大変になります。

整形外科の診療所の場合は月平均の患者数を1700・客単価が3500円程度になっています。そうなってくると診療所に入ってくる1年の収入は3500円×1700名×12か月=7140万円程度になります。自由診療の割合の多いところはもう少し収入が上がります。

ただ今後は整形外科の患者数は減っていく方向にあります。整形外科の診療報酬自体は上がるところ下がるところまちまちと思われます。患者数は10年平均で5%から7%ぐらい落ちていくのではないかと思われます。となっていくと普通に考えていくと収入は下がっていく方向に行くところが多くなっていきます。

整形外科の経費


今までは収益の面でみてきました。今度は医療スタッフや設備などのコストの面を考えていきます。

まず整形外科クリニックなどを経営するには建物が必要です。建物を買うか・借りるか。またその費用を一発現金で払うか・ローンで払うかという問題が出てきます。そこで購入・一発現金以外の場合は毎月の建物のローンが発生します。このローンの額は地方・都市部。駅近く・郊外などによってかなりのばらつきが出ます。おそらく最低でも月10数万円・高いところは100万円近くになってもおかしくはありません。整形外科の場合ですとリハビリをするための広い部屋及びリハビリ器具などが必要なのでけっこうな経費がかかってきます。

また人員面でも看護師などのスタッフを確保する必要があります。さらに整形外科だと理学療法士・作業療法士・視能訓練士などのリハビリスタッフが必要になります。このスタッフを数名程度置く必要がありますので黙って2000万円程度はかかってしまいます。整形外科の経営を難しくしているのはこの人件費ともいわれています。

事務員さんなどは奥さんや身内の方に手伝ってもらうことも可能ですがそれでも多少の人件費はかかってしまいます。いずれにしても固定費もそう簡単には減らせません。この収入が減る・固定費が変わらないというところが病院・診療所経営の難しいところでもあります。

建物・器具・人件費で整形外科のコストはだいたい5500万円程度はかかるといわれています。

収益=収入ーコストで計算できます。前年度の収入が年間7140万円・固定費などのコストが5500万円であれば7140万円‐5500万円=1640万円程度は手元に残ります。

ここから収入が5%下がると年間の収入が6800万円になります。人件費は少しずつ高騰していくので10年で200万円くらいの出費がさらにかかるものと計算します。

となると数年後には6800万円‐5700万円=1100万円になってしまいます。10年で利益が3分の2になってしまいます。これがイコール開業医の方の収入と考えると頭の痛い問題と言えます。

整形外科の開業は今後は容易でないかもしれません。さらに整形外科を開業している方はこのような実態になる前に早急に手を打つ必要がありそうです。

患者さんへの丁寧な対応

整形外科の場合は手術などがなく診察と投薬が中心になります。あとは自費診療の注射そして大事なのがリハビリになります。どちらかというと患者に寄り添う形の診療になります。そこからも患者への対応が重要になってくるのではないかと思われます。婦人科や小児科ほどではないにしても患者の口コミなども大事になってきますので注意が必要です。

整形外科の場合は集患ができないと収入が入りにくく経営が成り立ちにくくなっています。しかも整形外科は患者数が減っている傾向になっているので普通に行くと少しずつ収入や収益が落ちていきます。さらにリハビリや自費診療などを抑えて診療報酬を中心に行っている医院はさらに苦戦が今後も予想されます。

整形外科は医師・看護師だけでなくリハビリスタッフを多く置く必要がありますので人件費がかなりかかります。さらに広めの施設や設備を確保する必要がありますのでこの面でも費用がかかってきます。

集患が難しくなりつつあって人件費などのコストがかかりますので整形外科の経営は年々難しくなりつつあるのが現状です。全体的には難しくなりつつあるもただそれでも上手に経営を行って収益を上げている院もあります。経営侵略を知っているか知らないかはとても重要になってきます。

整形外科クリニックのデータ作成

 A医院(非分業)B医院(分業)
実患者数14582298
延患者数36915480
平均来院回数2.5312.384
初診料397(27.2%)546(23.8%)
初診:機能強化加算  
初診:夜間・早朝等加算4778
初診:乳幼児加算108
初診:妊婦加算1 
再診料10871675
同日再診料214
電話等再診 2
再診:夜間・早朝等加算146198
再診:休日加算15
再診:乳幼児加算118
再診:妊婦加算13
時間外対応加算132714595
時間外対応加算2 2
明細書発行体制加算32714595
地域包括診療加算2  
認知症地域包括診療加算2 3
外来管理加算461(12.4%)714(13.0%)
診療情報提供料5668
慢性疼痛疾患管理料 290
外来リハビリテーション診療料117834
外来リハビリテーション診療料29711
調剤技術基本料  
消炎鎮痛等処置8611698
創傷処置3891
運動器リハビリテーション料1178841
運動器リハビリテーション料28917
運動器リハビリテーション料37721843
血液学的検査判断料109210
免疫学的検査判断料54187
糞・便等検査管理料  
微生物学的検査判断料107
生化学的検査判断料479
呼吸機能検査等判断料 2
外来迅速検査加算3 
単純撮影6721258
CT撮影2287
MRI撮影521
超音波検査2742
胃・十二指腸ファイバースコピー  
骨塩定量検査3475
心電図619
負荷心電図72

笠浪 真

1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢52人(令和3年10月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。

医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。

医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。

こちらの記事を読んだあなたへのオススメ