整形外科クリニック経営の実態と今後の戦略


はじめに
整形外科の患者数は、コロナ禍に減少傾向は見られたものの、現在は回復期となり患者数は増加しています。
整形外科となると、小中高校生・大学生や社会人などのスポーツや部活に伴う外傷の患者さんも利用をすることが多くなりますが、近年少子高齢化により、この若者世代の数もどんどん減ってきています。単純に、子どもや若者の絶対数が減ってくると、整形外科に通ってくる若い患者さんは減ってくる事が容易に想像できます。
整形外科クリニック経営を軌道に乗せる患者数は最低でも60名/日確保したい
整形外科の患者数は1日100名(月2200名程度)で月750万円程度であると言われています。1日1人あたり3,500円程度(自己負担1,100円程度)ということになります。それが60名(月1,300名程度)だと4,500万円程度になります。整形外科のコストはだいたい年4,500万円から5,000万円程度なので、最低限はこの程度の売上がないと経営が成り立たないということになります。
整形外科の場合は大きな手術が少ないうえに、医師や看護師だけでなくリハビリスタッフの人件費がかなりかかります。数名を雇用すれば、それだけで年間2,000万円程度は出ていく事になります。施設面の充実なども考えていくと、整形外科の経営は簡単ではありません。
整形外科における脳血管リハビリの重要性と経営効果
整形外科にとって重要な仕事の1つが、脳疾患に罹ってしまった方のリハビリです。特に脳梗塞や脳出血などの脳卒中の後遺症に苦しむ方が多いです。このような疾患の後遺症には半身まひ・失語症・嚥下などがあります。これらの障害に対しての訓練を行っていく必要があります。
脳卒中のリハビリというのは、整形外科にとっては患者さんの社会復帰を考えていく上でもとても大事なことです。脳血管疾患のリハビリの診療報酬の点数が上がるということもあり、実施をするにあたっては理学療法士・作業療法士・視能訓練士などのスタッフが必要になります。脳血管リハビリを行う病院では数名は必ず置かなければならない職種の人材なので、コスト面でかなり厳しくなります。
ただそれを差し引いても、脳血管リハビリをメインに置いていた医療機関、及び整形外科医院の多くは、増収・増益に展開したところがい多くなっているようです。医療機関は良くも悪くも診療報酬に左右される面はあります。
整形外科における自由診療展開

整形外科にも自由診療はあります。にんにく注射(ビタミン注射などの栄養源を打ち込んで元気にする)、美肌をめざすためのコラーゲン注射、関節の痛みなどを緩和するブロック注射などです。整形外科も美容整形外科に近いような内容の治療を行える余地があるということですね。
これらの自由診療収入は、保険の1.5倍から2倍程度と言われています。相場としては、だいたい1本2,000円から2,500円くらいであり、自由診療にウエイトをかなり置いている整形外科はそこそこ儲かりそうですが、全体の診療のうちの1割程度、そこまで比率が大きくない場合には、一般診療を行っている整形外科と大差はなさそうです。
整形外科診療所の収入構造と今後の課題
収入=患者数×客単価に診療報酬の点数が比例してきます。患者数は近年においては高齢化社会で増えていきてはいますが、患者数が1割増えても競合が年間数%程度増えていきます。さらにクリニックの場合は客単価が稼げません。さらに診療報酬が数%程度減少します。こうなってくると収入を維持するのは大変になります。
整形外科の診療所の場合は、月平均の患者数は1,700、客単価は3,500円程度となっています。そうなってくると診療所に入ってくる1年の収入は3,500円×1,700名×12か月=7,140万円程度になります。自由診療の割合の多いところはもう少し収入を上げられるでしょう。
整形外科の診療報酬自体は、上がるところ下がるところまちまちと思われます。患者数の予測は、中期的には高齢化社会の進行や長寿化により患者数の維持は可能であると考えられます。
整形外科医院開業・運営における経費の実態

今までは収益の面でみてきました。今度は医療スタッフや設備などのコストの面を考えていきます。
まず整形外科クリニックなどを経営するには建物が必要です。建物を買うか、借りるか。またその費用を一発現金で払うか、ローンで払うかという問題が出てきます。そこで購入する場合、一発現金以外の場合には毎月の建物のローンが発生します。このローンの額は、地方/都市部。駅近く/郊外などによってかなりのばらつきが出ます。おそらく最低でも月10数万円・高いところは100万円近くになってもおかしくはありません。整形外科の場合ですと、リハビリをするための広い部屋やリハビリ器具などの設置が必要になりますので、結構な経費は必至です。
また人員面でも、整形外科においては看護師などのスタッフをしっかりと確保する必要があります。さらに整形外科特有の理学療法士・作業療法士・視能訓練士などのリハビリスタッフも必要になります。これらのスタッフを数名程度置く必要がありますので、軽く年間2,000万円程度はかかってしまいます。整形外科の経営を難しくしているのはこの人件費ともいわれています。
事務員さんなどは奥さんや身内の方に手伝ってもらうことも可能ですが、それでも多少の人件費はかかってしまいます。いずれにしても固定費もそう簡単には減らせません。この収入が減る・固定費が変わらないというところが病院・診療所経営の難しいところでもあります。
建物・器具・人件費で整形外科のコストはだいたい5,500万円程度はかかるといわれています。
収益=収入ーコストで計算できます。前年度の収入が年間7,140万円・固定費などのコストが5,500万円であれば7,140万円‐5,500万円=1,640万円程度は手元に残ります。
ここから収入が5%下がると年間の収入が6,800万円になります。人件費は少しずつ高騰していくので10年で200万円くらいの出費がさらにかかるものと計算します。
となると数年後には6,800万円‐5,700万円=1,100万円になってしまいます。10年で利益が3分の2になってしまいます。これがイコール開業医の方の収入と考えると頭の痛い問題と言えます。
整形外科の開業は決して容易でないかもしれません。既に整形外科を開業している方は、このような実態になる前に早急に手を打つ必要がありそうです。
集患戦略とコスト増にどう向き合い整形外科経営をすべきか
整形外科の多くは手術などをせず、診察と投薬が中心になります。あとは自費診療の注射、そして大事なのがリハビリになります。患者の苦しみに長く寄り添う形の診療方式がメインになりますので、患者への対応が重要となるでしょう。婦人科や小児科ほどではないにしても、患者の口コミも大事になってきますので注意が必要です。
整形外科の場合は、どの科でもそうですが、集患ができないと収入が入りにくく経営が成り立ちにくい傾向が大きいです。リハビリや自費診療などを抑えて診療報酬を中心に行っている医院はさらに苦戦が今後も予想されます。
前述の通り、整形外科は医師・看護師だけでなくリハビリスタッフを多く置く必要がありますので、人件費がかなりかかります。さらに広めの施設や設備を確保する必要がありますので、この面でも費用がかかってきます。
設備費や人件費などのコスト上昇もあり、医院全体、整形外科の経営は年々難しくなりつつあるのが現状であることはお分かりになると思います。
全体的に医院経営が難しくなりつつある中にあり、ただそれでも上手に経営を行って収益を上げている医院もあるのが現実です。経営戦略を知っているか知らないかはとても重要になってきます。
整形外科クリニックのデータ作成
A医院(非分業) | B医院(分業) | |
実患者数 | 1458 | 2298 |
延患者数 | 3691 | 5480 |
平均来院回数 | 2.531 | 2.384 |
初診料 | 397(27.2%) | 546(23.8%) |
初診:機能強化加算 | ||
初診:夜間・早朝等加算 | 47 | 78 |
初診:乳幼児加算 | 10 | 8 |
初診:妊婦加算 | 1 | |
再診料 | 1087 | 1675 |
同日再診料 | 2 | 14 |
電話等再診 | 2 | |
再診:夜間・早朝等加算 | 146 | 198 |
再診:休日加算 | 1 | 5 |
再診:乳幼児加算 | 11 | 8 |
再診:妊婦加算 | 1 | 3 |
時間外対応加算1 | 3271 | 4595 |
時間外対応加算2 | 2 | |
明細書発行体制加算 | 3271 | 4595 |
地域包括診療加算2 | ||
認知症地域包括診療加算2 | 3 | |
外来管理加算 | 461(12.4%) | 714(13.0%) |
診療情報提供料 | 56 | 68 |
慢性疼痛疾患管理料 | 290 | |
外来リハビリテーション診療料1 | 178 | 34 |
外来リハビリテーション診療料2 | 97 | 11 |
調剤技術基本料 | ||
消炎鎮痛等処置 | 861 | 1698 |
創傷処置 | 38 | 91 |
運動器リハビリテーション料1 | 178 | 841 |
運動器リハビリテーション料2 | 89 | 17 |
運動器リハビリテーション料3 | 772 | 1843 |
血液学的検査判断料 | 109 | 210 |
免疫学的検査判断料 | 54 | 187 |
糞・便等検査管理料 | ||
微生物学的検査判断料 | 10 | 7 |
生化学的検査判断料 | 47 | 9 |
呼吸機能検査等判断料 | 2 | |
外来迅速検査加算 | 3 | |
単純撮影 | 672 | 1258 |
CT撮影 | 22 | 87 |
MRI撮影 | 5 | 21 |
超音波検査 | 27 | 42 |
胃・十二指腸ファイバースコピー | ||
骨塩定量検査 | 34 | 75 |
心電図 | 6 | 19 |
負荷心電図 | 7 | 2 |

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監修者
笠浪 真
税理士法人テラス 代表税理士
税理士・行政書士
MBA | 慶應義塾大学大学院 医療マネジメント専攻 修士号
1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢52人(令和3年10月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。
医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。
医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。