耳鼻咽喉科クリニックの現状と財務・経営戦略

公開日:2019年8月19日
更新日:2024年3月18日

はじめに

耳鼻咽喉科の診療所の数自体は今でも増えています。この10年でだいたい7%ほど増えています。診療所全体でおよそ10%ほど増えていることを考えると7%の増加自体がそれほど多いというわけではありません。ただ増えているということは競合が多くなるということでもあります。また同時に参入がしやすくなっているということでもあります。このようなところからも耳鼻咽喉科の競合は今後も増えていくことが予想されます。

1日55名は確保したい

耳鼻咽喉科の患者数は1院あたりの平均でだいたい1日90名(月2000名程度)で月760万円程度と言われています。1日1人あたり3800円程度(自己負担1080円程度)という感じになっています。それが55名(月1100名程度)だと月470万円程度になります。耳鼻咽喉科のコストはだいたい年4000万円から4500万円程度のところが多いので最低限はこの程度の売上がないと経営は成り立ちません。

1日90名だと年間9200万円ほど行きますので経営的にはさほど問題はなさそうです。実際に耳鼻咽喉科の場合は無床診療所・有床診療所ともに1院当たりの収益は平均で2000万円から3000万円ほどあります。経営的には安定しているところがあります。他の科よりも収益的には安定しているクリニックも多く経営面からみると上手く行きやすい傾向がありそうです。

患者数は多い

耳鼻咽喉科の患者数は1クリニック平均で1日あたり90名・月に2000名ほどとかなり多くなります。ただこの数字はあくまで平均であってクリニックによっては1日100名を超えるところも多くあります。また花粉症などの繁忙期には1日あたり130名・140名ということも出てきます。こうなってくるとクリニック自体が戦争状態になります。患者数も多くなりますので待合室も混雑します。午前・午後・夕方と休みをほとんど取らずに診療をしなければならない場合もあります。この面での体力勝負というところも耳鼻咽喉科には出てくるのかなという気がします。

子供が多く後期高齢者は少ない

耳鼻咽喉科の場合は意外にも高齢者特に後期高齢者の患者さんは1割程度とだいぶ少なくなっています。その代わりに小さいお子さんや若い患者さんが多くなっているのが特徴といえます。高齢者の割合が少なくなっているのが耳鼻咽喉科の特徴といえます。ここから3割負担の患者さんが多いということになりますので保険診療を行う上では多少のメリットになりそうです。

耳鼻咽喉科の患者さんに若い方が多い理由としては2・3月の花粉症との関連が出てきます。耳鼻咽喉科は花粉症の対応をしていますのでこの時期は特に患者数が増えます。夏季の1.5倍ほどの患者数になるところも多くあります。さらに耳鼻咽喉科は小児科を兼ねているところもありますので風邪やアレルギーなどの治療を行っているクリニックもあります。このようなこともあって耳鼻咽喉科の患者さんはお子さんや若い方が多くなる傾向にあるようです。

また生命にかかわるような深刻な病気がほとんどないという点では耳鼻咽喉科の開院のストレスは小さいです。夜間診療に対応する必要もほとんどありません。クリニック経営の中では他の科に比較して責任が大きくはないのかなという気がします。

高齢者の患者さんがあまり多くないという理由には高齢の方はさらなる深刻な病気を抱えている方も多くいます。耳鼻咽喉科よりも内科などの生命にとって重要な科にかかることが優先されますのでこのような傾向も出てくるのかなという気がします。

収益は割に良い

耳鼻咽喉科は患者数が多い割には施設や設備にさほどお金がかからない方なので比較的収益が高めになっています。ただ患者数が多いので広めの待合室だけは確保しておく必要があります。また設備も聴力検査器などは比較的高価なのでそれなりにはかかりますがそれでも他の科よりもかかりません。人件費も医師と看護師2名程度で乗り切ることはできるので比較的少額で済みます。

これらから耳鼻咽喉科の収益性は他の科よりも良いクリニックが多くなっています。耳鼻咽喉科のクリニック自体も数は増えていますがそれ以上に患者数が増えているということもあって平均的に見れば収益を確保できているクリニックは多くなっています。

耳鼻咽喉科の自由診療


耳鼻咽喉科の自由診療は中耳炎やインフルエンザ治療などの治療のために行う鼻洗浄・中耳炎からの鼓膜の狭窄を治療するための耳管通気・アロママッサージ・神経疾患の治療などがあります。原因不明の体調不良などがあると神経疾患が疑われます。その際には耳鼻科で治療を行うことが多いです。ただそこでも回復が難しいことが多いです。そのような場合には自由診療をする場合もありそうです。

耳鼻咽喉科クリニックの中で自由診療の収入は無床クリニックでだいたい1割弱ほど、有床クリニックではおおよそ3割弱ほどになっています。これは全体の平均値でありますので保険診療が大半のクリニックもあれば自由診療が全体の収入の半分以上になっているところがあります。有床クリニックの方が営業コストがかかりますので価格の高い自由診療を多く行っているという方針は理解できます。

患者をどうさばくか

耳鼻咽喉科の患者数は1クリニックあたり1日平均で90名ほどいます。この90名という患者さんの診察はかなり大変なものがあります。1時間に10名を診察してもおおよそで9時間ほどかかります。1時間に10名を診察するとなると患者1人当たりの診察時間は平均で5分程度になります。10人で1時間だと6分あるのですが患者さんの交代などにも時間を要するので実際の診察時間は5分あるかどうかと見積もった方がいいでしょう。この5分というのが患者さんにとっての最低限度の診察希望時間といえます。これ以下にすると患者さん自体にあまりメリットがなくなってしまうのでこれ以下にすることは難しくなります。

ただ1日90名を診察するとなるとおそらく9時から19時くらいまでクリニックを開院をしなければなりません。それが毎日となってくるとかなりの負担になります。この点で体力面の負担がかかることは否定できません。高齢の医師であればさらにこの面の負担が増してきます。また耳鼻咽喉科の患者数は年々増えていく傾向にありますので今後もしばらくはこの流れが続きそうです。

耳鼻咽喉科の収入

内科のコスト


収入=患者数×客単価に診療報酬の点数が比例してきます。後期高齢者の数が多いということは診療報酬・保険収入に頼る部分が大きくなります。この部分は今後も下げていくのではないかと思われますので安心はできません。

耳鼻咽喉科の診療所の場合は月平均の患者数2000人・客単価が3800円程度になっています。そうなってくると診療所に入ってくる1年の収入は3800円×2000人×12か月=9120万円程度になります。耳鼻咽喉科の経費を引いても2000万円から2500万円程度の利益は少なくても手元に残りそうです。この収益は医師自身の収入といっても過言ではありません。

また耳鼻咽喉科の場合は患者数が10年で4から5%ほど増えています。今後も患者数の増加によって収入の上がる耳鼻咽喉科クリニックは増えていきそうです。

耳鼻咽喉科の経費


今までは収益の面でみてきました。今度は医療スタッフや設備などのコストの面を考えていきます。

まず耳鼻咽喉科クリニックなどを経営するには建物が必要です。建物を買うか・借りるか。またその費用を一発現金で払うか・ローンで払うかという問題が出てきます。そこで購入・一発現金以外の場合は毎月の建物のローンが発生します。このローンの額は地方・都市部。駅近く・郊外などによってかなりのばらつきが出ます。おそらく最低でも月20万円・都心部などの高いところでは80万円クラスの規模になってもおかしくはありません。耳鼻咽喉科を中心に経営をしていくクリニックの場合は整形外科のような広い施設を確保することは必須ではありません。この分建物の費用はある程度抑えられそうです。

また人員面でも医師と看護師2名がいれば大きな問題はなさそうです。さすがに1名では有事の時に厳しいので2名いることが理想的といえます。

事務員さんなどは奥さんや身内の方に手伝ってもらうことも可能ですがそれでも多少の人件費はかかってしまいます。いずれにしても固定費もそう簡単には減らせません。この収入が減る・固定費が変わらないというところが病院・診療所経営の難しいところでもあります。

建物・器具・人件費などでで耳鼻咽喉科のコストはだいたい5000万円程度はかかるといわれています。他の科よりも膨大にかかるというわけではないのですがそれでもかなりのコストがかかるのではないかと思われます。

収益=収入ーコストで計算できます。前年度の収入が年間9100万円・固定費などのコストが5000万円であれば9100万円‐5000万円=4100万円程度は手元に残ります。

収入はほぼ横ばいか少し上がると仮定し100万円くらいプラスで考えていきます。人件費は少しずつ高騰していくので10年で100万円くらいの出費がさらにかかるものと計算します。

となると数年後には9200万円‐5100万円=4100万円になります。コストが多少かかっても患者数の増加で当面は収益を確保できそうです。

患者への対応が大事


耳鼻咽喉科の場合は耳や鼻の手術を行うこともありますがさほど多くはありません。ほとんどの耳鼻咽喉科クリニックの場合は手術よりも診察・投薬という治療方針を行っているところが多くなります。そうなっていくと患者さんにいかに寄り添っていくかが重要になります。丁寧な対応をしていけるかはとても重要です。これができないと患者数を2・3割減らしてしまうこともありそうです。特に都市部のクリニックではすぐ隣にクリニックがあるという状況になりますのでちょっとした対応の不備で他院に行かれることもあります。患者数が多いので仕方ない面もあるのですがこの点の努力は最大限行っていただきたいです。

また耳鼻咽喉科クリニックの場合は乳幼児や小学生などのお子さんが多いです。クリニックによっては風邪やインフルエンザなどの小児科も併設しているようなところもありますのでお子さんへの接し方と引率の親・祖父母に対する対応の仕方で悩んでしまう医師や看護師も多いようです。

この点は悩みどころですができるだけ患者であるお子さんにまずは寄り添うことが大事なのかなという気がします。極端な甘やかしをしてはいけませんがお子さんの体の不調を理解して丁寧な言葉をかけてあげることは医師にとっては重要なことだと感じています。小さいお子さんほど医師の一言は大きいのではないかと感じていますのでこのあたりの心がけは大事になりそうです。

また耳鼻咽喉科クリニックの場合は患者数が多いですので医師と看護師などの医療スタッフの連携がとても重要になります。一例としては患者応対を看護師が行う・次に症状などの状況を聞いて投薬を含めた適切な診療方法を医師が提供する・そこに聴力検査などが必要であれば看護師が対応して医師もしくは臨床検査技師などが検査を行う・次に新しく出た薬の説明と次回の診療の日程を看護師が決めるという具合で流れ作業が重要になります。

医師と看護師、場合によっては臨床検査技師も含めた診療の連携が必要になります。この連携がしっかりとしているか否かで2割程度診療の効率が違ってきそうです。ここでも収入や収益に大きな差が出てきますのでしっかりと連携して行うことも大事になります。

耳鼻咽喉科の医師は高い治療技術を要することはありませんが、診療医として患者そして看護師などとの医療スタッフとの連携などのコミュニケーション力が必要になります。ここができれば患者数を買確保することは難しくなさそうです。若い患者が多くクリニックが増えているという実態からみても都市部の新規開業という比較的高難度の分野でも参入のチャンスは残されているような気がします。その際は、財務・経営に精通した税理士選びも重要になってきます。

耳鼻咽喉科クリニックのデータ作成

  A医院(分業)
実患者数 2013
延患者数 2540
平均来院回数 1.262
初診料 1049(52.1%)
初診:乳幼児加算 63
初診:妊婦加算 3
初診:乳幼児夜間加算  
初診:夜間・早朝等加算 48
再診料 1186
同日再診料 1
電話等再診  
再診:乳幼児加算 154
再診:夜間・早朝加算 20
再診:妊婦加算 21
時間外対応加算1  
時間外対応加算2  
明細書発行体制加算 1186
耳垢除去 246
鼻処置 1315
耳管処置 286
耳処置 524
喉頭処置 198
喉頭処置 12
扁桃処置 132
鼓膜処置 32
副鼻腔自然口開大処置 760
超音波ネブライザー 3
ネブライザー 967
血液学的検査判断料 3
免疫学的検査判断料 47
尿・糞便等検査判断料  
微生物学的検査判断料 29
生化学的検査判断料 8
呼吸機能検査等判断料  
外来迅速検査加算  
標準聴力検査 229
簡易聴力 198
平衡機能検査 8
チンパノメトリー< 183
咽頭ファイバースコピー 1
重心動揺計 22
単純撮影 8
CT撮影  
超音波検査  
胃・十二指腸ファイバースコピー  
骨塩定量検査  
心電図  
負荷心電図  

笠浪 真

1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢52人(令和3年10月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。

医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。

医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。

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