医者の子供は医者になる?それとも医者にならない?|最近の医学部受験の事情や後継者問題について

公開日:2019年8月13日
更新日:2024年4月9日

昔から「医者の子供は医者になる確率が高い」と言われています。

正確な調査データがなく体感値程度と考えられますが、それでも医者を親に持つ医学部生は全体の30%、私立の医学部となれば50%程度と言われています。

子供にとって一番身近で影響を与える親が医者であれば、医療に興味を持つのは自然でしょう。

しかし、当然医者の子供全員が医者になるわけではありません。医者になるためには医学部を卒業するのは必須ですし、学費も他の学部より高額です。

何より、親が医者だからといって、子供が医者に向いているとは限りません。医者にならず、他の職業に就くのもまた自然なことです。

この記事では、医者の子供が医者になる場合、ならない場合に分けて最近の医学部の事情や承継問題についてお伝えしたいと思います。

子供に医者を勧めない開業医も多い

開業医の先生のなかには、「ぜひ自分の子供も医者になって、ぜひクリニックを継承してほしい」と考えている方も多いでしょう。

実際に2代、3代と続く医科歯科クリニックも少なくありません。親戚の大半が医者という家系もあります。

特に開業医の先生はクリニックの相続・承継問題もありますから、子供が医者になるかどうかは関心が高いのではないかと思います。

ただ、一方で「子供に医者は勧めない」という開業医の先生も少なくありません。

2017年のm3.comの意識調査などを見ると、子供に医者になってほしい開業医の先生は約6割、そうでない先生は約4割という結果が出ています。

「医者の子供も医者になる」イメージの割には、案外子供に医者を勧めない開業医の先生は多い印象です。

これは「自分の人生くらいは好きに選んでほしい」という思いもあるでしょう。しかし何よりも開業医の先生が医者という仕事をどう捉えているかで意見が分かれるようです。

「責任はあるけど、やはり医者はやりがいのある仕事だ」と思えば、子供にもクリニックを継いでほしいと思えるでしょう。

しかし、体力や精神力を要し責任を伴う仕事です。「ミスが許されないから肉体的、精神的にきつい。子どもに同じ思いはさせたくない」という先生もいらっしゃるのでしょう。

なお、医師に限らず、中学生以下のお子さんをお持ちの親御さんを対象に「子供に就いてほしい職業は?」とアンケート調査したところ、「医師」と答えた親御さんが1位だったという結果が出ています。

この調査によると、調査人数200人のうち64人、つまり全体の32%が医師と答えたことがわかっています(ARINA株式会社「おうち教材の森」調べ)。

親御さんが医師かどうかに関わらず、「子供に医師になってほしい」と考える親御さんはかなり多いようです。

子供にとって医者は人気の職業

子供が将来なりたい職業をランキングにすると、ここ数年はYouTuberなど昔はなかった職種が上位になることが増えてきました。

しかし、一方で子供にとっては医者も手堅い人気であることがわかります。

(1)第一生命「第33回 大人になったらなりたいものベスト10」(2021年)

小学生男子6位
小学生女子5位
中学生男子11位
中学生女子3位
高校生男子6位
高校生女子6位

(2)日本FP協会「小学生の将来なりたい職業ランキング」(2021年)
⇒医者は小学生男子3位、小学生女子1位

(3)ソニー生命「中学生の将来なりたい職業ランキング」(2021年)
⇒医者は中学生男子、中学生女子ともに圏外(2019年は女子3位)

このように、小中学生の間では医者は比較的憧れの職業と言えるでしょう。

これは昔から医療ドラマや医療を題材としたマンガが相変わらず人気であることも影響していると思われます。

また医療ドラマでなくても、テレビドラマは全般的に医療現場のシーンが出てくることが多いものです。

子供の頃にテレビドラマの医療現場のシーンを見て、なんとなく医者に憧れを抱いた方も少なくないのではないでしょうか?

しかも開業医の子供であれば、親が医者であることで、医療が身近でリアルになっています。

こういったことを考えれば、親の承継の意思に関わらず、「医者になりたい」と考える子供が多くなるのは自然と言えます。

子供が医者にならない場合

長年医院・クリニックに関わってきて、比較的医師のお子さんは同じ道を選ばれるケースが多いように思えますが、別の道を選ぶお子さんももちろんおられます。

最終的に子どもの人生は子どもが選択するので、医師になるにしてもならないにしても、その進路を選んだお子さんを応援するのは言うまでもありません。

社会人になってから医学部に学士編入する人も

一度医学部受験に失敗して他の学部に入学した場合でも、医者の道を諦めきれない人もいます。

また、いったんは「医者にならない」と選択しても、何かのきっかけで「医者になりたい」と考える人がいます。

医学部は、他の学部と比べて社会人から学士編入した人や、一度大学を退学してから再入学する人の割合が多い学部です。

実際にこのような形で医者を志した先生も多いのではないでしょうか?

医学部の学士編入学とは、大学卒業者を対象に、2~3年次から編入学する制度で、多くの国立大学や私立大学で実施されています。

大学受験の試験科目との違いとしては、生命科学や物理化学などが主要科目となり、大学1~2年程度の知識も求められます。

大学卒業者は1年次から入学する再受験も可能なので、再受験と編入学試験の併願も可能です。

再受験や編入学試験に挑戦するということは、かなり意思は固いのではないかと思います。

もし、大学途中もしくは社会人になってから「医者になりたい」と言うのであれば、開業医としてじっくり相談してみると良いでしょう。

子供が継がなかった場合のクリニックの後継者問題

お子さんが誰も医師にならない場合、後継者問題は早めに考えておきましょう。

親子承継でない場合、考えられるのは次のパターンです。

  1. 医院・クリニックで働く医師(副院長など)への承継
  2. 第三者への承継(M&A)
  3. 廃業、解散

後継者がいなければ、廃院・解散と考えている開業医の先生も多いですが、M&Aも視野に入れて両方の観点で検討するようにしてください。

詳しくは、次の記事をご覧ください。

【関連記事】医院・クリニックの後継者不在なら廃院か?M&Aか?

子供が医者になる場合

次に、子供が医者を志すことになった場合のお話です。

医者を志すということは難関の医学部に入学するわけで、医学部入学までの養育費、医学部の学費を考える必要があります。

医学部入学までのお金の話については、次の記事で詳しく書いていますので、ぜひご覧ください。

【関連記事】開業医の子供も医者に?医学部に入れたいなら知っておくべきお金のこと

医学部の難易度は上昇傾向

明るいニュースではないのですが、医学部の難易度は以前よりも上昇しています。

もともと国立大学は地方の国立大も含めて難易度が高いのですが、最近は私立大学の医学部も難易度が上がっています。

理由は学費の値下げです。私大で一番学費の安い国際医療福祉大学は2017年に医学部が開設したばかりにも関わらず、偏差値は70前後とかなり高め。

その他、学費を下げた私大の医学部は軒並み偏差値が上がっています。

学費が高い私大は反比例するように偏差値は低下する傾向にあります。しかし、それでも早慶上智の理工学部に合格する学力は最低限求められます。

あと、医学部の難易度を物語るのが、現役合格率です。

文部科学省のデータによれば、2015~2018年まで、国公立私立大学医学部の合格者の割合を見てみると、現役合格者の割合は32~36%程度です。

現役合格者が全体の1/3程度と考えると、いかに医学部が狭き門であるかがわかります。

得意科目に絞った受験ができる大学もある

相変わらず難関である医学部受験ですが、戦略的に合格を狙う方法もあります。それが、得意科目に絞った受験です。

国公立大ですと、文系科目を含めて1科目でも苦手な科目があると致命的になることもありますが、私大ですと得意科目に絞った受験ができる大学もあります。

帝京大学医学部の例(一般選抜)
英語を必須として、その他国語、数学、物理、化学、生物から2科目選択。

そのため「国語、数学、英語」「国語、生物、英語」といった文系学部の試験科目に近い組み合わせが可能。

しかも数学は数Ⅲ・Cが範囲に入っていません。(二次試験で小論文あり)

東海大学医学部の例(一般選抜)
英語と数学を必須として、理科は物理、化学、生物から1科目選択。

理科は得意科目どれか1個でもあれば良く、数学は数Ⅲ・Cがない。

そのため、物理や数学が苦手でも受験しやすい。(二次試験で小論文あり)

また、国立大学の医学部でも2次試験が数学と英語のみの大学もあり、作戦次第では合格を狙うことができます。

苦手科目があると難しいイメージのある医学部受験ですが、得意科目に絞って受験できる道があることを覚えておくと良いでしょう。

※受験科目については変更になる可能性があるので、希望の大学については個別で調べるようにしてください。

日本の大学で医学部を卒業しなくても医者になる選択肢がある

聞くと驚くかもしれませんが、医学部を卒業しなくても医者になる選択肢があります。

しかし、これは正確には「日本の医学部を卒業しなくても」ということです。つまり、海外の医学部に入学するということです。

海外の医学部を卒業し、日本の医師国家試験に合格すれば日本で医者になることができます。

例えば東ヨーロッパの医学部は、日本の過熱した医学部入試と違ってかなり易しいとされています。偏差値で言えば、50以上あれば何とか合格できると言われています。

それでいて研究レベルも高く、共通言語は英語になっているので、英語が得意で海外に抵抗がないなら挑戦してみると良いでしょう。

入学後の勉強は大変かもしれませんが、海外で活躍できる医者になることも期待できます。

クリニックの家族経営について

クリニックは、配偶者やお子さんと一緒に家族経営(同族経営)しているところがかなり多いです。

お子さんが医師であれば、医療法人の社員や理事に就任するケースがとても多いです。

将来的に自分のクリニックを承継したいと考えているのであれば、早めに自分のクリニックで働いてもらうのも良いでしょう。

家族経営については、次の記事で詳しく書いていますので、併せてご覧ください。

【関連記事】医療法人が家族経営する場合のメリットとデメリット

【まとめ】子供の人生は子供が選択する

以上、開業医の先生の子供が医者になる場合と、ならない場合についてお伝えしました。

近年の医学部受験はますます過熱しており、私大も含め難易度が上がっています。

ですから、もしお子さんも医者になってほしいと考えるのであれば、早い段階で受験について考えておいた方が良いでしょう。

しかし、基本は「子供の人生は子供が選択する」ということ。

お子さんが将来どのような進路を希望しているのか医療の現場を見せながらじっくり話し合い、相談すると良いでしょう。

笠浪 真

1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢52人(令和3年10月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。

医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。

医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。

こちらの記事を読んだあなたへのオススメ