もう患者ではない!モンスターペイシェント(問題患者)の種類と対応法
はじめに
ケアネットが2013年に会員医師に対して行った調査(有効回答数1,000人)によると、7割近くの医師が「医療機関や医療従事者に対して、理不尽な要求・暴言・暴力を繰り返す患者や、その家族に対応した経験がある」と答えています
こうしたいわゆるモンスターペイシェント(問題患者)が原因で他の患者さんの診察に支障が出た医院も多いのではないでしょうか?
さらにエスカレートすれば、医師や看護師がうつ状態になるまで追い込まれ、業務ができなくなることもあります。
また、モンスターペイシェントの対応は、応召義務や医療過誤といった問題が絡むため、一般企業のクレーマー対応とは違った難しさがあります。
そこで、モンスターペイシェントの種類を分類し、トラブルを防ぐための対応法を考えてみましょう。
驚愕のモンスターペイシェント(問題患者)の主な4つの種類と対応
少し前のデータですが、大手医療者専門サイトm3.comは2015年に「最も非常識だと感じた患者やその家族の言動は?」というアンケートを行いました。
アンケート結果を見ると、なかには常識とはかけ離れた驚愕に値するモンスターペイシェント事例もあります。
①数日前から子どもが発熱していたのに、昼間ではなく夜間に受診し、「小児科医を呼べ」と言う。しかも夜間受診で解熱剤ではなく「冷えピタ」を要求する。(理不尽な要求)
②「病院にいて容体が悪くなるとはどういうことだ!」という、いわれなきクレームや暴言。(暴言を吐いたり、暴力を振るう)
③「親父が老衰で死んだのはお前のせい」と主張してくる遺族の理不尽な文句。(医療過誤だと主張してくる)
④学校でケガをした児童が、学校の紹介で受診したものの、親は「診察は望んでいなかった」と支払いを拒否。(医療費を支払わずに治療を受けようする)
どれも驚愕する事例ですが、このようなモンスターペイシェントは概ね次の4つの種類に分けられます。
理不尽な要求をする
モンスターペイシェントの中で多いのが、必要以上に完治を求めてくるなど、理不尽な要求をしてくるパターンです。
理不尽な要求をしてくるモンスターペイシェントの例と、特徴についてお伝えしていきます。
理不尽な要求の事例
- 「先生、絶対元通りに治してください」
- 「明日までに絶対治せ」
- 「ちゃんと診たのか?」
- 「治らないから金返せ!」
- 「ちゃんと治せる医者を紹介しろ」
- 「紹介先の病院に見舞いに来い」
- 「医者にプライベートはない。24時間働け」
- 「(深夜に)クリニックに行っても良いですか?」
なかには、看護師や医療事務に対して「付き合ってください」というケースも稀にあるようです……。
理不尽な要求をするモンスターペイシェントの対応
病気の完治を執拗に求めてきたり、医師や看護師に対して過度の労働を強いるケースが多いようです。
なかには医師や看護師にはプライベートがなく、いつ何時でも患者対応するものだと思い込み、平気で診療時間外にやってくる人もいるようです。
このような理不尽な要求をしてくる患者さんにはどうしたら良いでしょうか?
病気の完治などを求められた場合、医師は医師法などの法律に従い、最善の方法で治療をし、その説明を十分に行えば問題ないとされています。
患者さんに対しては、病気の完治を約束しなくてもよいのです。
すぐに応急措置を要する場合でもないのに、診療時間外の診療を要求した場合、休日夜間診療所の受診を指示すれば応召義務違反にはなりません。
この手のモンスターペイシェントのケースは比較的多いため、スタッフと一緒に対応マニュアルを作っておいても良いでしょう。
暴言を吐く・暴力を振るう
理不尽な要求がエスカレートすると、暴言を吐いたり、暴力を振るうようなケースもあります。
暴言を吐いたり、暴力を振るう事例
- 「悪い噂を流してやる」(⇒Google Mapsなどで悪い口コミが書かれる可能性あり)
- いきなり殴りかかってきた
- 大勢で何時間も取り囲む
- 長時間恫喝して引き下がらない
さほど数は多くないですが、モンスターペイシェントの理不尽な要求や診療への不信感がエスカレートして暴言・暴力に発展することがあります。
暴言を吐いたり、暴力を振るうモンスターペイシェントの対応
暴言を吐いたり暴力を振るう患者、特に医院の業務を妨害するような事態までエスカレートすると非常に厄介です。
このような常軌を逸したモンスターペイシェントに対し、診療を拒否しても応召義務違反とならないかは気になるところですが、裁判事例を見たところ、実際に応召義務違反を認めた例はありません。
もちろん、後述するように信頼している弁護士に確認した方が良いですが、応急措置が必要な事態でない限りは、最悪診療拒否も止むを得ないでしょう。
なお、心配であれば録音などして、迷惑行為の証拠をつかむようにしましょう。暴力を振るうような場合は警察に通報するなどの対応が必要です。
医療過誤だと主張してくる
見当違いな理由で「医療過誤ではないか? 訴えてやる」というモンスターペイシェントもいます。
思うように症状が改善しなかった場合など、多少なりとも不信感を抱かれてしまうことはあるかもしれませんが、なかにはどう考えても理不尽な主張なこともあります。
医療過誤だと主張してくる事例
- 「全然治らないじゃないか!」
- 「言っていることと違うじゃないか!」
- 「こんなことになったのはお前のせいだ!」
- ブログやSNSなどの情報を鵜呑みにした見当違いのクレームを言ってくる
- 治療拒否しておきながら症状が悪化し、「お前のせいだ」と言う
- 医師の指示に従わずに病状が悪化し、あとで「聞いてないぞ!」と言ってくる
医療過誤だと主張してくるモンスターペイシェントの対応
医療行為の結果、患者さんの希望通りにならないことももちろんあるでしょう。
しかし、すべての責任を医療スタッフや医師のせいにする患者さんがいます。
もちろん、医療側の過失により発生してしまった結果ならば、誠意をもって謝罪をし損害賠償を支払う必要があるでしょう。
ただし、医療法律相談に来るほとんどのケースは医療過誤に当たらないと言われています。
「医療過誤」だという主張には、冷静に対処し、後述するように事実を詳細に、論理的に説明する必要があるでしょう。
医療過誤による医療訴訟を防ぐための対策については、以下の記事をご覧ください。
【関連記事】医療訴訟の実態とクリニックが行うべき6つの対策とは?
医療費を払わずに診察を受けようとする
医療費(診療報酬)の未払いのトラブルに巻き込まれるケースもあります。最近は外国人の医療費未払いが話題になったりもしています。
医療費を払おうとしないモンスターペイシェントには、どのように対応していったら良いのでしょうか?
医療費を払おうとしない事例
- 支払いをせずに帰ってしまった
- 「検査で異常ないなら、検査代は要らないですよね」
- 後払いにしておきながら電話に出ない
- 「治療が長引いたのはお前のせい」と延長した医療費は払わない
医療費を払おうとしないモンスターペイシェントの対応
過去に自院の医療費が未払いの患者が来院した場合は、未払い分を支払ってもらってから診察するようにしましょう。
内容証明郵便などで正式に督促し、再三の督促にも応じなかった場合は、診療を拒否しても応召義務違反とはならないでしょう。
場合によっては、患者さんの経済状態に応じた行政や福祉、生活保護や無料低額診療事業へ誘導することも大切です。
医療費未払いの問題については、以下の記事で詳しく書いていますので、併せてご覧ください。
【関連記事】【医療費の未払い対策】どうやって回収する?時効は?診療拒否できる?
【関連記事】60万円以下の医療費未払いなら少額訴訟を検討しよう
【実践的対応】モンスターペイシェント(問題患者)が来院してしまったら……
ここからは、実際に先に紹介したようなモンスターペイシェントが来院してしまったら、具体的にどのようにしていったら良いか?
先の4つの種類に共通して、重要な対応法についてお伝えしていきます。
反論や説得したい気持ちを抑えて傾聴する
理不尽な要求をしてくる。しまいには暴言を吐いたり、医療過誤だと主張してくる……。
このようなモンスターペイシェントに対しては、ついその場で反論したり説得したりしたくなるものですが、それはタブーです。
いったんモンスターペイシェントが「こいつは敵だ!」と思ってしまうと引き下がらず、対立構造を解消するのが難しくなりがちだからです。
反論したい気持ちをこらえて、当該患者が「どのように考えているのか」「なぜクレームを言っているのか」の話を聞きましょう。
クレームを言っている患者さんに対する傾聴を心がけてみて下さい。
理由は、以下のようにモンスターペイシェントが言っていることに対して、事実を詳細に説明するためです。
事実を詳細に伝える
たとえば、小児科クリニックで、発熱や咳、嘔吐の症状の子どもを母親が連れてきたとしましょう。
熱は37℃で他に特段異常もみられなかったので、処方箋を出して診察を終えました。
しかし、その後母親が怒りの形相で「たったこれだけ? 本当にちゃんと診たの?」と執拗に迫ってきました。こんなケースでは、どのように対応すればよかったのでしょうか?
まずは先に挙げたように、傾聴して「とても不安ですよね」と親の気持ちになって共感することです。
その後に、「きちんと診察させて頂きました。発熱があるのと少し喉が腫れているので、このお薬を処方します」など事実を詳しく説明し、真摯に対応するようにしましょう。
特に「診察が足りないのではないか?」「医療過誤ではないのか?」と不信を抱いている場合は、事実を詳細に説明することで収まることがあります。
信頼できる弁護士に依頼する
先にも少し触れましたが、信頼できる弁護士に相談できるような体制を整えておきましょう。
モンスターペイシェント(問題患者)が騒ぎ立てるようなことは少ないのですが、怒りが収まらない場合、「訴えてやる!」とトラブルに発展するようなケースが考えられます。
しかし、信頼できる弁護士がいる場合は相談できますし、問題患者に対しても「弁護士に相談します」と伝えることもできるでしょう。
その一言で問題患者が引き下がるようなこともあり得ます。
婦人科や小児科など、比較的トラブルが多い科は弁護士と契約を結んでいる場合が多いです。
4つの種類別の対応方法でお話したように、応召義務違反に当たらないか微妙なケースもありますし、「医療過誤だ!」と訴えられることも考えられます。
いざとなれば相談できる弁護士がそばにいると、かなり心強いでしょう。
【まとめ】モンスターペイシェントの万全の対応策を
今回は、モンスターペイシェントのパターンや対応方法についてお伝えしました。
モンスターペイシェントには、主に以下のような4つの種類があります。
- 「理不尽な要求をしてくる」
- 「暴言を吐いたり、暴力を振るう」
- 「医療ミスだと言われる」
- 「診療報酬を払わない」
モンスターペイシェントの対応で共通して重要なことは、「傾聴し、論理的に事実を伝える」こと、及び信頼できる弁護士に依頼することが大切です。
モンスターペイシェントは、クリニックの評判や、医師やスタッフのメンタルヘルスに大きな影響を及ぼしかねません。
ぜひ、今回お話したことを1つでも取り入れて、モンスターペイシェントにしっかり対応できるよう準備していただければと思います。
なお、モンスターペイシェントの対応は、応召義務の話と密接に関係してきますが、応召義務については、以下の記事に詳しく掲載しています。
監修者
笠浪 真
税理士法人テラス 代表税理士
税理士・行政書士
MBA | 慶應義塾大学大学院 医療マネジメント専攻 修士号
1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢52人(令和3年10月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。
医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。
医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。