【専従者給与】開業医の妻の給与を経費にできる要件と3つの注意点
はじめに
医院を開業された先生の中には、妻や兄弟など身内の方と一緒にお仕事をされている方もいらっしゃるのではないでしょうか?
医師や看護師に限らず、医療事務や経理など1スタッフとして、妻や兄弟に給料を支払いながら経営されている医院は多く存在します。
特に親族経営である場合、身内の協力の元、事業を展開・継続することは珍しくありません。
個人開業の医院・クリニックと医療法人では、ご家族が働いている場合の節税のスキームは異なります。
今回は、個人の開業医の先生に向けて、身内に支払う給与を専従者として経費計上するための制度(青色事業専従者給与など)や要件について、お伝えいたします。
家族に支払った給与が必要経費として認められるには?
まず、専従者給与の基本的な要件についてお伝えします。
親族に支払う給与が必要経費として認められるには、以下のように青色申告か白色申告かによって要件が異なります。
- 事業を営む青色申告者で、一定の要件のもとに親族へ支払った給与を必要経費とする青色専従者給与額の必要経費算入の規定の適用を受ける方法
- 事業を営む白色申告者で、事業専従者控除の適用を受ける方法
それでは、各々解説していきます。
青色事業専従者給与として認められる要件とは?
開業医の先生の大半は青色申告者と思われるため、青色事業専従者給与について中心にお伝えしていきます。
なお、後述するように、青色事業専従者給与の必要経費算入が認められても、際限なく必要経費にできるわけではないので注意が必要です。
青色事業専従者給与の基本的な3要件
所得を分散することによって節税効果が見込める専従者給与は、次の3つの要件に該当している人が対象となります。(所得税法57条)
- 青色申告者と生計を一にする配偶者その他の親族であること
- その年の12月31日現在で年齢が15歳以上であること
- その年を通じて6ヵ月を超える期間(一定の場合には事業に従事することができる期間の2分の1を超える期間)、その青色申告者の事業に専ら従事していること
青色事業専従者給与に関する届出書の提出
上記の該当者は「青色事業専従者給与に関する届出書」の給与を支払う年の3月15日までに所轄税務署へ提出する必要があります。
ただし、「1月16日以降に開業」また「新たに専従者が増えた」場合には、開業した日または専従者が増えた日の2ヵ月以内に提出することになります。
生計を一にするとは?
法律の条文を読むと、たまに出てくる「生計を一にする」という表現。
青色事業専従者給与の要件にも、「青色申告者と生計を一にする配偶者その他の親族であること」と表現されています。
「生計を一にする」という表現の定義については、国税庁のホームページを確認すると、次のように記載されています。
日常の生活の資を共にすることをいいます。
会社員、公務員などが勤務の都合により家族と別居している又は親族が修学、療養などのために別居している場合でも、①生活費、学資金又は療養費などを常に送金しているときや、②日常の起居を共にしていない親族が、勤務、修学等の余暇には他の親族のもとで起居を共にしているときは、「生計を一にする」ものとして取り扱われます。引用元: 国税庁のホームページ
別居していても「生計を一にする」場合があることになりますが、要は「同じ財布を使って生活しているかどうか」ということです。
15歳以上でかつ、同じ財布を使って生活していなければ、青色事業専従者給与の要件には当てはまりません。
そのため、青色事業専従者給与の条件に当てはまるのは、実質的にほとんどが「開業医の妻」ということになります。
白色申告者の専従者給与として認められる要件
まず大前提として、白色申告者は専従者への給与を経費にすることはできません。
ただし、以下の要件を満たし、事業専従者控除を適用できた場合、親族への給与相当額を経費として認められるケースがあります。
- ・白色申告者と生計を一にする配偶者その他の親族であること
- ・その年の12月31日現在で年齢が15歳以上であること
- ・その年を通じて6ヵ月を超える期間、その白色申告者の事業に専ら従事していること
そして、確定申告書に控除を受ける旨やその金額など必要な事項を記載することで、次の2つのうち低い方の金額が適用されます。
(1)事業専従者が事業主の配偶者であれば86万円、配偶者でなければ50万円
(2)この控除をする前の事業所得等の金額を専従者の数に1を足した数で割った金額
なお、15歳以上であったとしても、学生や他に職業がある場合、事業に従事していたとしても、専従者の判定期間に含まれないこともあります。
また、青色事業専従者・事業専従者の該当者は、控除対象配偶者や扶養親族とされず、事業主の所得税計算において、人的控除が加味されないため、注意が必要です。
開業医の妻の給与を経費にする際の3つの注意点
専従者給与の概要をお伝えしたあとは、開業医の妻の給与を経費にする際に気をつけておきたいポイントについてお伝えします。
知らないと、税務調査で指摘されて追徴課税を課されたり、節税する上で損をしてしまったりということになるので、しっかりと押さえておいてください。
開業医の妻の給与額は仕事内容から妥当か?
青色専従者給与の必要経費算入が認められても、際限なく必要経費にできるわけではなく、一般的に次の3つの視点と届出書に記載した範囲によって判断されます。
- 専従者の労務に従事した期間、労務の性質、および程度から見て妥当かどうか?
- 同じような事業に従事している従業員の給与状況から見て妥当かどうか?
- 事業種類や事業規模などから見て妥当かどうか?
つまり、専従者に不当に高い給料を支払った場合は必要経費として認められません。
また、同業他院に勤めている医師や看護師の給与、また事業規模と比較し、高額であると認められた給与額については必要経費と認められないこともあるのです。
個人開業の医院・クリニックの税務調査では、開業医の妻の給与はチェックされやすい項目です。もし、経費として認められなければ追徴課税が課されます。
税理士や社労士と連携を取って、仕事内容にあった適正な給料を決めるようにしましょう。
なお、専従者給与には、もちろん各種手当や賞与も含みます。
もちろん、給与明細、タイムカードや業務日報等の客観的資料を残しておくのは言うまでもありません。
社会保険診療報酬の概算経費の特例とどちらが有利か?
個人の医院・クリニックの確定申告が、一般の個人事業主と何が違うかというと、社会保険診療報酬の概算経費の特例が使えることです。
社会保険診療報酬の概算経費の特例とは、社会保険診療報酬が5,000万円以下、かつ自由診療収入と雑収入を含めた報酬総額が7,000万円以下の場合に適用される特例です。
特例を適用するかどうかは、毎年選択することが可能です。
一般的には開業したばかりの個人開業の医院・クリニックは、概算経費の特例を適用した方が節税上有利になることが多いです。
一方で医療法人の場合は、役員報酬が経費になるなどの理由で、実額経費で計算した方が節税上有利になることがほとんどです。
社会保険診療報酬の概算経費の計算については、以下の記事をご覧ください。
ここで注意したいことは、青色事業専従者給与の計上と、概算経費の特例は同時に適用できないことです。
開業医の先生の妻が同じクリニックで働いている場合は、概算経費と実額経費のどちらが有利になるか、確認しましょう。
概算経費 | 実額経費 | |
---|---|---|
実額経費(青色事業専従者給与計上前)>概算経費 | ☓(不利) | ◯(有利) |
実額経費(青色事業専従者給与計上後)>概算経費 | △ | △ |
実額経費(青色事業専従者給与計上後)<概算経費 | ◯(有利) | ☓(不利) |
専従者給与と医療法人の役員報酬の具体的な違いは?
これまでお話したように、個人医院・クリニックの開業医の先生であれば、開業医の妻に対する給料は専従者給与が適用されます。
一方、医療法人の場合は、妻はもちろん、家族を役員として、役員報酬を支払うのが一般的でしょう。
そこで、専従者給与と役員報酬の違いについて比較表で示すと以下のようになります。
専従者給与 | 役員報酬 | |
---|---|---|
関係法令 | 所得税法 | 会社法、法人税法 |
時間外など各種手当の支給 | あり | なし |
賞与の支給 | あり | なし(定期同額給与) |
未払経理 | 不可 | 可能 |
「生計を一にする」の要件 | あり(実質妻のみ対象) | なし(家族全員が対象) |
雇用形態 | 正職員もしくはパート | 委任契約 |
従事期間の縛り | 6ヵ月 | なし |
報酬基準 | 仕事内容(労務の対価) | 業務内容、役割、法人の収益等(職務執行の対価) |
大きな違いは、専従者給与が実質的に妻しか対象にならないことに対し、役員報酬はその制限がなく、家族全員を対象として所得分散できることです。
そのため、兄弟姉妹や子どもが医師の場合など、家族経営するような場合は、医療法人の方が節税メリットは大きくなります。
その他にも医療法人化のベストタイミングの要因はありますが、収益が大きくなってきたら法人化して役員報酬や退職金等で節税することを検討しましょう。
なお、役員報酬については、みなし役員も含め、毎月決まった報酬を支給する必要があり(定期同額給与)、役員賞与は損金計上できません。
また、役員報酬についても業務内容・医院の収益状況・同業同規模水準と比較し、妥当な報酬金額を超えると「過大役員報酬」とみなされます。
過大役員報酬とみなされた場合には、損金として算入できません。これは青色事業専従者給与と同様、税務調査ではよくチェックされる項目です。
【まとめ】青色事業専従者給与の注意点を把握しておく
今回は、開業医の奥様が、先生のクリニックで働く際の給与を経費とする要件と注意点についてお伝えしました。
青色事業専従者給与については、仕事内容に対して過大になっていないか、概算経費の特例とどちらが有利なのかなどの注意点があります。
そもそも医療法人化して役員報酬で所得分散化した方が節税に繋がる先生もいるでしょう。
ぜひ、今回お話したことで、先生の医院・クリニックの適切な税金対策に活かしていただけたらと思います。
監修者
笠浪 真
税理士法人テラス 代表税理士
税理士・行政書士
MBA | 慶應義塾大学大学院 医療マネジメント専攻 修士号
1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢52人(令和3年10月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。
医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。
医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。