出張が多い開業医必見!節税目的で旅費を経費とする際の3つのポイント

公開日:2019年6月7日
更新日:2024年3月18日
旅行の画像

開業医の先生やクリニックの看護師は、最新の医療情報や医院経営を学ぶため、遠方の学会やセミナーへ出張する機会は意外に多いもの。

医院・クリニックが成長すればするほど、そういった出張の機会は増える傾向にあります。

もちろん、出張は業務に関係する範囲内であれば経費として認められ、「交通費」「宿泊費」「学会参加費」「交際費」などが該当します。

出張旅費規程を定めておけば、「日当手当」を計上することもできます(個人クリニックの事業主は除く)。

ただし出張旅費は国内外問わず、税務調査では必ずチェックされる項目の1つですので、曖昧な経費処理は避けないといけません。

そこで今回は、出張において節税目的で旅費を経費として計上する際の注意点をお伝えいたします。

【ポイント①】その出張旅費、どこまで経費として認められるか?

節税目的で旅費を経費とする

学会やセミナーへの出張に、観光を兼ねたり、家族を伴ったりすることもあるでしょう。

観光を兼ねた出張旅費の場合、どのように経費計上すれば良いのでしょうか?

【実費計算の場合】業務に要した費用だけを経費とする

まずは国内出張についてお伝えします。

出張旅費規程を作成すれば、規程に従い一律に旅費を計算することになります。

ただしスタッフ数も少なく、出張の機会が少ない個人クリニックなどは、実費計算のケースもあるでしょう。

実費計算の場合は、当然ながら、業務に関係がなく、出張に併せて観光した場合の旅費は経費になりません。

例えば、次のような費用は経費として認められません。

  • 観光名所に行くために必要な交通費
  • 学会や研修がない日の宿泊費(休日をまたぐ出張や、前後泊しないと間に合わない場合は除く)
  • 業務や研修・学会参加に関係のない人との交際費

そのため、業務遂行上必要な費用の領収書と、プライベートの費用の領収書を分けて管理した上で経費処理する必要があります。

同時に、どのような業務や研修・学会に参加したかや日時・工程がわかる証拠書類は保存して残しておきます。

その際、通常の旅費と比べても、明らかに高額な交通費や宿泊費となっている場合は、税務調査で指摘される可能性があるので注意しましょう。

家族旅行を兼ねた出張は、家族の旅費は原則経費計上しない

節税目的で旅費を経費とする

出張による交通費や宿泊費、交際費などは基本的に業務に要した場合のみ経費計上されます。

そのため、医院・クリニックのスタッフではない配偶者やお子さんの旅費まで経費にすることは原則できません。

例外的に、家族の旅費が経費として認められる可能性はありますが、次のようにかなり限定的なものになります。

特に子供の旅費まで経費にするのはかなり難しいと考えて良いでしょう。

家族の旅費が経費として認められる可能性のある例
  • ・配偶者が同じ医院・クリニックで働いており,同じ仕事や研修を目的として出張した
  • ・配偶者が同じ医院・クリニックで働いており,社員旅行に参加した(福利厚生費として処理できることもある)
  • ・日本語も英語も通じない海外出張で,現地に詳しい配偶者が帯同した
  • ・出張先の仕事相手とは,配偶者を通じて連絡を取っており,今回初めて会う
  • ・家族で参加することが求められている出張

【ポイント②】海外出張における海外渡航費の取り扱い

海外出張についても、基本的には業務と私用に分けて処理することになりますが、観光を兼ねた海外渡航費の扱いについて、国税庁は以下のように定めています。

法人の役員又は使用人が海外渡航をした場合において、その海外渡航の旅行期間にわたり法人の業務の遂行上必要と認められる旅行と認められない旅行とを併せて行ったものであるときは、その海外渡航に際して支給する旅費を法人の業務の遂行上必要と認められる旅行の期間と認められない旅行の期間との比等により按分(あんぶん)し、法人の業務の遂行上必要と認められない旅行に係る部分の金額については、当該役員又は使用人に対する給与となります。

※国税庁ホームページ「No.5388 海外渡航費の取扱い」より抜粋

このように、原則として「業務に関連する部分は旅費」、「観光に関する部分はその役員等の給与」と判断されます。

計上される項目によって非課税かどうかが決まるため、医院としては業務用か観光用かを区別できるよう、明確な判断基準を設けておく必要があります。

業務従事割合が50%以上であれば経費として認められる

経費計算

では海外出張において、業務と観光を区別する際、どのような方法があるのでしょうか?

その方法のひとつに、業務従事割合を用いた方法があります。

まず、海外渡航費における「損金算入額」と「必要経費算入額」をそれぞれ計算するために、日程を業務と観光の時間に分けます。

日数の区分については、昼間の通常業務時間(約8時間)を1.0日として、0.25日単位で日数を割り出します。

そして、割り出した日数を以下の計算式に当てはめて業務従事割合を算出します。

業務従事割合の計算式
視察などの業務に従事した日数÷(視察などの業務に従事した日数+観光した日数)

業務従事割合が50%以上であれば、「海外渡航が業務遂行上必要である」と判断され、「往復交通費と旅行費用に業務従事割合を乗じた金額」が経費として認められます。

海外出張の旅費を経費として計上することを明確にするためにも、業務従事割合が50%を満たすことが第三者に分かるよう、工程表に記録しておくことをオススメします。

領収書や工程表などは必ず保管しておく

領収証・工程表の画像

ではどんな渡航方法でも業務上の出張として認められるのかというとそうではありません。

下記に該当するものは、原則として「業務に関連するものではない。」とされているため、十分な注意が必要です。

(1)観光渡航の許可を得て行う旅行

(2)旅行あっせんを行う者等が行う団体旅行に応募してする旅行

(3)同業者団体その他これに準ずる団体が主催して行う団体旅行で主として観光目的と認められるもの

※国税庁ホームページ「No.5388 海外渡航費の取扱い」より抜粋

ただし、実務上、わざわざ就労ビザを取得せず、観光用として出張される場合も多いかと思います。

そのため、業務への関連性を説明できれば、旅費としての計上は可能ではあります。

また、役員が親族や業務に常時従事していない者を同伴した場合、会社が負担した同伴者の旅費は特別な場合を除き「同伴させた役員等の給与」と扱われ課税対象となります。

海外渡航費は税務調査の際に必ずと言っていいほど確認される項目であるため、十分な説明や証拠となる書類がないと、最悪申告漏れとして追徴課税となる場合もあります。

そのためにも、第三者が確認して経費の名目を判断できるよう、以下については特にしっかりと書類を保管し、記録を残しておきましょう。

  1. 業務上必要な出張であるかが分かる資料
  2. 同伴者の必要可否を判断できるエビデンス
  3. 旅行会社などが発行した行程表
  4. 移動・宿泊・飲食でかかった経費の領収書

海外出張で旅費計上時の為替レートを判断する基準

為替レートの画像

また、海外出張でよく問題となるのが精算する際の為替レート。

為替レートにはメディアで日々公表されているTTS(外貨の買値)、TTM(仲値)、TTB(外貨の売値)、空港等の外貨両替専門店、クレジットカードなど、様々な種類が存在します。

法人税上は取引日のTTM(仲値)と規定されておりますが、現地で使った経費をその日の為替レートで計算するのは極めて煩雑なこと。

更に出張者はそもそも仲値を狙って外貨に両替する余裕はありません。

そのため、外貨の現金に両替したときのレートやクレジットカードの利用明細に記載されているレートを用いて精算されるのが一般的です。

出張旅費の精算時には、現地の領収書に加えて、両替時の明細書、クレジットカードの利用明細書のコピーを添付しておくことをオススメします。

【ポイント③】出張が多い医院・クリニックは出張旅費規程を作成する

出張が多い医院・クリニックは、一つひとつの出張の交通費や宿泊費などを都度実費精算するのはかなり手間になってきます。

多くのスタッフが1つの研修や学会に出張する場合等、一つひとつ経費処理するのは経理担当者の大きな負担になるでしょう。

そこで、実費精算するのではなく出張旅費規程を作成して、経費精算システムの入力で簡単に済ませられれば、手間が大幅に省けるようになります。

また、出張旅費規程を作ることで、日当手当を含む出張に関わる費用の支給を非課税にできます。そのため、院長先生もスタッフも節税面で有利になります。

出張旅費規程の作成などの詳細は以下の記事をご覧ください。

【関連記事】出張が多いほど節税効果?出張旅費規程策定のメリットとは

出張中の日当手当や、規程の旅費と実費の差額も非課税

出張旅費規程を整備し、すべてのスタッフに規程に則った金額が支給されている場合は、非課税となる日当手当を支給することができます。

非課税となる理由は、出張旅費規程を作成しておけば、日当手当も必要経費の負担とみなされるためです。

ただし、不当に高額では税務調査時に否認されることもあり得ます。

また、前述のように業務と私用が混ざっていれば按分するなど、プライベートに関わる部分は除外しなければなりません。

ただ、出張旅費規程で日当手当を支給できるのは、クリニックにとっては損金とできますし、院長先生やスタッフ個人で見ても所得税がかからないのは大きいでしょう。

また、出張旅費規程を作成すると、交通費や宿泊費が固定されます。

そのため、実費でかかった額と、支給された額で差額が生まれ、残金はそのまま院長先生やスタッフの利益となり、これも非課税です。

たとえば、規程に則って、1泊12,000円の宿泊費を支給したとして、実費では1泊3,000円のホテルに宿泊すれば、1泊9,000円もの差額が生まれます。

ただし、逆に実費が上回り、例えば1泊30,000円のホテルに泊まった場合は、不足の18,000円は自己負担となるので注意が必要です。

経費精算システムで経費精算の手間を省く

節税目的で旅費を経費とする

出張旅費規程を作成することで、出張の多い医院・クリニックの経理担当者の事務負担を大幅に減らすことができます。

とはいえ、いくら規程で定めたと言っても、出張期間や場所、クリニックの役職によっても金額が変わってきます。

それを経理担当者が一つひとつ判断して手計算するには、やはり大きな負担でミスも多くなります。

しかし、経費精算システムを導入することで、経理担当者はスタッフの入力項目をチェックするだけで済むので、非常に効率的になります。

簡単なマニュアルを用意しておけば、スタッフも簡単に理解できて入力できるシステムを導入するようにしましょう。

【まとめ】業務と私用で的確に区分して正しく節税

以上、開業医の先生やクリニックのスタッフが出張に行く際の経費計上のポイントをお伝えしました。

出張や研修の旅費は、税務調査では必ずチェックされる項目です。

本記事を参考にして、業務と私用で的確に区分して正しく節税しましょう。

笠浪 真

1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢52人(令和3年10月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。

医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。

医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。

こちらの記事を読んだあなたへのオススメ