実は良いことづくし!医科歯科連携で得られる効果とは?
はじめに
近年、医科歯科の連携が重要視されてきています。
厚生労働省は、「地域包括ケアシステム」を構築し、患者さんができるだけ住み続けた場所で生活できるようにすることを目指しています。
このシステムを利用すれば、患者さんの医療必要度が高くなったら入院してもらい、集中して治療を行って、症状が安定してきたら自宅や介護施設に移動してもらうことができます。
近年では、口腔ケアにより病気を改善できることも確認できてきたため、「地域包括システム」を利用し、医科歯科がタッグを組んで患者さんを治療することで、早期に治療が完了したり、病状の緩和に繋げたりしています。
このように国も推し進めている医科歯科の連携ですが、まだあまり広まっていないのが現状です。
今回は、そんな医科歯科連携の効果についてお話しいたします。
医科歯科連携型病院が増えているのをご存知ですか?
近年、医科歯科連携体制をとっている病院が増えてきていることをご存知でしょうか?
専門医である歯科医と連携することで、医師や看護師だけではケアできない口腔内のケアを行い、患者さんの病気の予防や、感染症発症リスクを抑えています。
ある神奈川県の病院では、約120人の在宅患者を診療しているうち、30人は同病院の歯科医師の訪問歯科診療や、衛生士による訪問歯科衛生指導を受けているという例があります。
この病院で歯科に訪問診療を依頼するケースは、口腔内に問題がある場合(舌の痛み・義歯の不具合・歯周病や虫歯が有る場合等)や、ビスホスホネート製剤を使う場合です。
ビスホスホネート製剤を使うと、顎骨壊死することはよく知られているかと思いますが、
実際の原因は、抜歯等の歯科処理に関係しています。
事前に歯科医に口腔内を診てもらった後、ビスホスホネート製剤を使うことで、患者さんの顎骨壊死するリスクを減らすことが可能となっているのです。
他にも、ある歯科医師会では大学病院や近くの病院と連携し、患者さんの入院前の口腔ケア、病院訪問での入院前の口腔ケア、退院後の口腔ケアを実施しています。
病院訪問での入院前の口腔ケアを利用する患者さんは、かかりつけの歯科医がない場合が多いので、病院が紹介し、口腔ケアを行っています。
なかなか連携が上手くいかない中、リーフレットを作成して連携の内容と仕組みを説明したり、連携の窓口を歯科医師会付属の介護センターのみにしたりすることで、連携が円滑に行えるよう工夫しているようです。
このように、医師や看護師だけでは対応できない口腔内のケアを歯科医師に見てもらうケースが広がりつつあります。
医科歯科連携で患者さんに今まで以上に貢献できる
医科歯科が連携すると、どのようなメリットがあると思いますか?
一見、医科歯科が連携しても、必要な書類や手続きが増えるだけと感じてしまうかもしれません。
しかし、医科歯科が連携すると患者さんにとってもメリットがあります。
次は、医科歯科が連携することで得られる患者さんにとってのメリットをお話しいたします。
入院期間が通常よりも短縮される
厚生労働省が「地域包括ケアシステム」の構築を推進しているため、患者さんを集中的に治療し、状態が改善すれば自宅や介護施設に移動してもらうことで、介護サービスの利用につなげています。
そのため、患者さんの短期入院と、早期退院を推し進める病院が多くなっています。
ある大学病院では、一方で歯科医師が行う口腔内ケアを行う患者さんのグループと、もう一方で看護師が口腔内ケアを行う患者さんのグループを作って、入院期間の長さを調査した話があります。
この調査では、歯科医師が口腔ケアをした患者さんのグループは、看護師が口腔ケアをしたグループよりも入院日数が短縮したという結果が出ています。
口腔ケアをきちんと行うことは、入院日数にも影響するといえます。
誤嚥性肺炎の予防に役立つ
日本人の死因トップ3に入る肺炎を引き起こす原因として、誤嚥性肺炎があります。
この誤嚥性肺炎の予防として注目を集めているのが口腔ケアです。
口腔ケアの第一人者である米山武義氏が調査した結果では、「日常的な口腔ケアを毎日行い、歯科医師が週1、2回の口腔ケアを行ったグループと、行わなかったグループとを比べると、口腔ケアをしたグループの方が、誤嚥性肺炎の発症率が約39%、死亡率は約53%低かった」と発表しています。
患者さんの栄養状態が改善される
口腔ケアをきちんと行うことにより、口腔内にある細菌を減らすことができ、食事をたくさんとることができるようになり、栄養状態がよくなります。
食事をきちんととることが出来るようになるため、免疫力がアップするともいわれています。
このように、患者さんの体調の早期回復や、改善に歯科医師の専門的な口腔ケアが役立っています。
医科歯科が連携することによって患者さんの病状が改善されるスピードが高まるのです。
医科歯科連携で点数も加算傾向に
今までの歯科診療の中心は、義歯の治療や、う蝕の治療が中心でした。
しかし近年は高齢化が進み、歯科診療の需要も、口腔内のケアや管理に重点を置かれるようになってきたことと、医科歯科が連携することを推し進めていることによる点数の拡充が広がってきている傾向にあります。
例えば、周術期口腔利用管理料(患者さんの周術期に、口腔ケアを歯科医師が行うこと)の算定対象が、2018年の診療報酬改定で拡大して、「人工股関節置換術などの整形外科手術」や「脳卒中に対する手術」が加わりました。
また、入院患者の栄養をサポートするため、様々な職種の人で作られるチームで治療することに対する「栄養サポートチーム加算」に、歯科医師が参加することで得られる「歯科医師連携加算(50点)」が追加されています。
国も医科歯科の連携を推し進めているので、点数も拡充されている傾向にあります。
歯科医師にしかできない。患者さんの回復を助ける口腔ケアとは?
では実際に歯科医師が連携し、診療に当たった場合、何をすればよいのでしょうか。
例えば、周術期の患者さんの場合。
周術期の口腔ケアは、術前と、術後、退院後によって目的が大きく異なります。
術前の口腔ケア
術前口腔ケアでは、口腔内にある細菌の量をコントロールするために、歯科医師が口腔ケアを行います。
主に、歯石の除去や、プラークの付着を防ぐために、歯表面を研磨します。
歯科医師が行う専門的な口腔ケアによって、口腔内の細菌量が健康な人の口腔内の細菌量に近づきます。
術前に口腔ケアをすることで、口腔内の細菌の質も変わり、誤嚥性肺炎の予防にもつながることから、最近ではがん治療だけではなく、外科手術にまで広がりつつあります。
術後の口腔ケア
術後の口腔ケアでは、口腔内の乾燥の緩和や、口腔粘膜炎の予防など、抗がん剤や外科手術の影響で発生している口腔合併症を悪化させないように、細菌の管理をすることが重要です。
退院後の口腔ケア
その後退院後の口腔ケアでは、健康な口腔内に戻すためのうがいなどの口腔ケアをして、患者さんの健康に寄り添います。
口腔内を健康な状態に近づけ、栄養を摂取できるように口腔ケアの指導をします。
歯科医は、それぞれのステージの目的にあった口腔ケアの治療をする必要があるのです。
では、具体的にどのような流れで患者さんの対応をすればよいのでしょうか。
以下は術前の患者さんの具体的な対応の流れです。
対応の流れ
- 手術前:口腔ケアの必要性について患者さんに説明
- 歯周検査、口腔内チェック
- 歯石除去、機械を使用した歯面清掃・歯ブラシを使用した歯面清掃
- 自分で磨けるようになるための、セルフケア方法を指導
一つずつ見ていきましょう。
-
- 手術前:口腔ケアの必要性について患者さんに説明
手術前に口腔ケアをすることによって、肺炎の予防や合併症の予防につながること、早期回復につながることの説明をして、患者さんにご理解いただきます。
-
- 歯周検査、口腔内チェック
術前に口腔内を診察し、衛生状態をチェックします。 ここでは、普段の患者さんに行う歯科処置と変わりません。
-
- 歯石除去、機械を使用した歯面清掃・歯ブラシを使用した歯面清掃
歯肉縁上の歯石を中心に除去して、口腔内の常在菌の数を少なくします。 また歯石除去を行うことで、口腔内細菌叢が健康な人と近い状態になると考えられています。
-
- 自分で磨けるようになるための、セルフケア方法を指導
手術前までにセルフケアを継続できるよう、歯ブラシや歯磨剤、スポンジブラシなどをお薦めします。
患者さんが手術に万全の体制で臨めるようにするために、口腔内のケアは大切です。
医師は全体の病気を診察することはできますが、必ずしも口腔内の専門家ではありません。
歯科医が患者さんの状態を把握し、口腔内を整えることで、患者さんがより安全に手術に臨め、早く回復するのです。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回は医科歯科の連携の効果についてお話しました。
- 医科歯科連携をすることのメリットとして、入院期間の短縮、誤嚥性肺炎の予防、患者さんの栄養状態の改善が見込める。
- 医科歯科が連携することによる点数が拡充されている。
- 医科歯科連携で医師、看護師が対応できない口腔ケアをすることで、患者さんの体調の早期回復と、術後の合併症の予防につながる。
医科歯科が連携し、歯科医が患者さんの口腔ケアを行うことで、今までかかっていた時間よりも早く患者さんの回復を助けることができます。
誤嚥性肺炎の予防や合併症を防ぐこともでき、近年注目されています。
ぜひ今回お話したことを取り入れて、クリニックの経営に活かしてください。
監修者
笠浪 真
税理士法人テラス 代表税理士
税理士・行政書士
MBA | 慶應義塾大学大学院 医療マネジメント専攻 修士号
1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢52人(令和3年10月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。
医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。
医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。