【どうする?医院承継】医院経営の未来を決める、後継者問題と廃業・M&Aという選択肢

公開日:2019年2月2日
更新日:2024年11月22日

はじめに


医院を経営して軌道に乗せた。税金が困るくらいまで稼ぐことができた。ただもう自分も歳で体が動かなくなってきた。次の後継者を探さなければならないなどの問題が出てきます。これも本当に切実な問題です。ただ病院に限らず後継者が見つからないという問題はどの業界でも起こっています。

跡継ぎはやっぱり息子にしたいという経営者がやはり多いのかなという気がします。ただ若い世代の方はお父さんを尊敬していても跡を継ごうという方は少なくなってきています。最近の若い世代の方はいろんな面で賢い方が多いこともあって、お父さんのすごさも知っている。ただ同時に大変さを分かっているので自分がこれを継ぎたくないという気持ちも理解できます。

もしくは経営者の気心知れた若い医師の方や自分の院に来てくれた若い医師に継いでもらうことも容易ではありません。跡継ぎが見つからずに結局閉院というところも出てきてしまうのが実態ともいえます。残念ですね。

ただ経営が上手く行った病院だけではなく、上手くいかなかった病院もこのままでは『赤字がどんどん膨らんでしまう』ので閉院をしなければならないという話も実際にあります。首都圏などの都市部の医院がやはりおおいのかなという気がします。

医院経営を続けるにも継がせるにも辞めるにも決断するということは簡単なことばかりではありません。以下でこれらの問題について考えていきます。

Q:息子に医院を継がせたい

病院を継がせたいという相談をけっこう多く受けています。早ければ早い方がいいという方もいるのですが決してそうとも言い切れません。多額の借入金がある場合はそれも引継ぎます。また父親に慣れたスタッフが若いお子さんになじむかも分かりません。何事にも時期とタイミングがあります。お子さんにも大きな覚悟が必要になります。

お子さんが同じ診療科の医師であれば問題ないのですが、違う科の場合は導入する機器や内装などの面で多額のお金がかかることもあります。またお子さんが複数いると相続財産などの問題でもめることもあります。

親子承継を考えている時には息子さんが30歳前後。お父様が60歳になる前くらいの時に事業承継や相続の話をしていきたいと考えています。
あくまでお子さんに承継をこだわるのか・他の方も視野に入れるのか・廃業も考えているのか・継ぐ場合にはスタッフの雇用問題をどうするかなどの相談を一度行っておくことをオススメします。

また医療法人であれば引継ぎを受ける理事長の方も医師である必要があります。また医療法人の場合は役員が3名以上必要になってきますので誰をそこに置くかも難しい問題になってくると思われます。

医院承継の場合はそれでもお子さんに承継するのが一般的と思われますが、それでも難しい問題が山ほど残されます。
病院承継などの問題は医院専門の税理士の方に相談をするのが最も近道なのかなという気がします。

Q:子どもは医師ではないので後継が決まらない

医療法人の理事長は原則医師でなければなりません。お子さんが医師でなければお子さん以外の方に承継をするしかなさそうです。ただそれも不在となると通常の承継という形を取ることはできないのかなという感じがします。

この場合だと大きく分けて医院を廃業するかM&Aでの事業売却をするかのどちらかになってくると思われます。

医院を解散するときには都道府県知事の認可を得ることが必要になります。認可を得ること自体は難しいことではありません。ただ今まで作り上げてきた医院を廃業するというのは相当の覚悟が必要になってきます。

もう一つはこれも簡単なことではありませんが、医院をM&Aで売却するという方法です。見知らぬ第3者に渡るという点では抵抗の大きい経営者の方もいますので一概にベストな方法とまではいえません。ただ自分の作った医院が継続するというメリットはあります。

M&Aの場合は売る方と買う方の合意で売却金額が決まります。売却価格の例としては保険診療の2~3ヵ月分の金額と固定資産の帳簿価格の合計額あたりを目安にする方もいるようです。その他売った後の出資持分や従業員さらに不動産の問題などの面で問題は多く残ります。

M&Aで売却する場合には親族承継に比較してはるかに難易度は高くなります。
この場合もできるだけ早い時期に医院専門の税理士の方に相談をするのが良いのではないかと思われます。

Q:医療法人での相続対策

医療法人は出資持分の有無で分けられます。出資持分ありの場合は出資持分に対しての評価になってきます。また出資持分のない場合には相続財産は基金と同額の評価額になることが多くなります。

出資持分は従業員の退社などによる払い戻しや医療法人の解散に伴う残余財産の分配などが起こり得るので財産的価値があると判断されることが多くなります。よって課税の対象になってきます。

また医療法人は剰余金からの配当を得ることもできません。よって剰余金が過去にまでわたって累積していることも多くかなりの高額になっていることも間々あります。そこから相続税が高くなってしまうこともあります。

出資持分を放棄したときは税額を猶予若しくは免除されることもあります。また出資持分ありからなしにすることも可能ですが、一定の条件が必要になってきますのでどちらを選択するにもかなり悩ましいところがあります。

相続税対策としては次のようなことを検討しても良いのではないかと考えています。

・医療法人の持分を親族に譲渡していく

⇒贈与税は年間110万円までは無税になっています。ただ恒常的な贈与は財産逃れという指摘を受けて後に一気に課税をされることもあります。

・役員退職金を利用して医療法人の出資持分を引き下げる

⇒社員の退職などがあると出資持分の評価額が下がりますので結果相続税を下げることもできます。

・MS法人などを活用する

⇒MS法人などに業務を移管することによって医療法人の利益を下げていきます。その結果株価を下げることができるので税金を下げることができます。

Q:被相続人の遺産相続が相続税の基礎控除額を超える

この場合は相続税を納める必要があります。納付期限は被相続人が死亡した翌日から10カ月以内となっています。期間を過ぎると税額を加算されてしまう場合もありますので注意しましょう。

相続に関わってくる財産は預貯金・不動産株式・公社債・生命保険などのプラス財産、被相続人の葬式費用などが該当します。借入金などのマイナスの遺産も課税対象になってきます。

そこから3000万円+法定相続人の数×600万円が控除額となります。法定相続人が3名いると4800万円までが控除されるということですね。

控除額の範囲内で財産が収まらないとなってくると相続税を支払う必要が出てくるとのことです。

また配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例などで税額が免除されることもあります。このあたりも一般の方には難しいところといえますので医院専門の税理士の方に相談をしてみることをオススメします。

仮に家族の間で遺産分割協議が成立して遺産の課税金額が0円になったとしても相続税の申告書を出す必要があります。正しい税金の知識を持つことそして信頼できる税理士を見つけておくことは大事になってくるのではないかと思われます。

Q:自分の財産をどうやって子どもたちに引き継がせるか?

開業医の経営者が遺産分割を考える際には後継者の有無や相続人の状況そしてその医院が出資持分があるか否かなども関わってきます。

後継人の方が1人であれば問題はほとんど起きません。ただ後継人が複数いると大きな問題になることもあります。特に後継人同士の関係があまり良くない時や後継人の中に生活に余裕のない方などが含まれるとさらにその問題が大きくなります。さらに後継人が医師とそうでない方がいるとまた難しい問題が出てきます。医師を行っているお子さんに多くの資産を残したい・教育費も莫大にかかっているなどの点でもめることが多くなります。

それなりに経営の回っている医療クリニックだと財産もそれなりの額になってきますので遺産を巡るトラブルなども出てくることが比較的出てきます。お子さんがそれなりに稼いでいてしかも仲が良いので争いがないなどの時は良いのですが必ずしもそういうことばかりではありません。

また後継者がいない場合にはM&Aで事業売却をしてしまうことも考えられます。その場合はお金はそれなりに入るも後のトラブルで苦労をしてしまうこともありますので注意が必要になってきます。

また出資持分が高くなってしまうとその分が相続財産となってしまいます。その膨らんでしまった相続財産をお子さんに平等に分配できないなどの問題が出てくることもあります。またその出資持分を複数の相続人に渡してしまうと後の病院経営に支障が出てくることも考えられます。

いずれにしても今まで長きをかけて作ってきた医院のシステムを大きく崩すことのないような承継を心がけていただきたいです。

そのようなところで不安を抱いている方は医院専門の税理士の方にぜひ相談をしていただきたいと思っています。

Q:クリニックの閉院手続き

後継者がいない・また病院経営が立ちいかなくなったなどの理由で医院を閉めたいと考えている方もいるのではないかと思われます。

その際は個人診療所医療法人とで手続きが異なってきます。

まず個人の診療所を閉めたいという時には、保健所に診療所廃止届とエックス線装置廃止届を出します。また厚生局に保険医療機関廃止届を出します。さらに被爆・生活保護・結核などの各種医療機関廃止届を出します。

あとは労働基準監督署に労災保険確定保険料申告を出します。そしてハローワークに雇用保険適用事業所廃止届・雇用保険喪失届・雇用保険離職票・健康保険喪失届の届け出をします。また健康保険証の回収なども行います。

次に医療法人を閉めたいという場合には、保健所に診療所廃止届やエックス線装置廃止届を出します。また厚生局に保険医療機関廃止届を出します。さらに被爆・生活保護・結核などの各種医療機関廃止届を出します。

ただ医院を廃業するときも書類の提出だけではなく、事業承継や財産の承継など面倒な点が多くあります。クリニックなどを閉めたいと考えている方も医院専門の税理士の方に相談をしていただければと思っています。

医院承継は切実な問題

歳を取ってきたので医院を承継したい。ただ後継者が見つからない・子供が跡を継いでくれないなどの問題も出てきます。まずお子さんが医師になれなければ病院経営を引き継ぐことは難しいものになってきます。

お子さんに引き継ぐことができないと考えると、自分の信頼できる若い医師に継がせるなどの可能性を考えている方もいるかもしれません。社交的な方で医師のネットワークの多い方であればそれも検討してみてもいいのかもしれません。ただその場合には相続財産の持ち分を自分のお子さんとその信頼できる医師との間で争うことになることが想像されます。ここでまた難しい問題にぶち当たります。

そこでM&Aなどによって売却するなどの選択も出てきます。売ることで目の前の金銭を得ることができます。さらに自分の作った医院が他人の手に渡るとはいえ医院経営も継続します。ただ新たな経営者になるということは今まで頑張ってくれたスタッフや今までの医療設備をどうするかなどの問題も出てきます。この辺りもとても難しい問題になります。

さらにこれという結論が出なかったので廃業をすることになってしまう場合もあります。廃業をする場合にも廃業手続きや今までの財産の精算さらに従業員の次をどうするかなどの問題も出てきます。

どの道に行っても経営者自身で処理をすることはとても大変なことです。

やはりこのような時のために医院に強みのある信頼できる税理士の方に相談をすることが最もよいのではないかと思われます。

できれば経営から降りたとしても安心して生活をできるような体制を持っていくことが大事になってきます。

医院経営を続けるにしても廃業するにしても悔いのない結論を出していただきたいと思っています。

笠浪 真

1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢52人(令和3年10月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。

医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。

医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。

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