【法改正】クリニックの常勤とパートの不合理な待遇差が禁止に

公開日:2020年4月7日
更新日:2024年3月18日

はじめに

働き方改革の一環として、2020年4月1日(※)より、パートタイム労働法がパートタイム・有期雇用労働法と名を変え、法改正が施行されます。

常勤とパート・有期雇用者の不合理な待遇差をつけることが禁止され、待遇に関する説明義務が強化されます。

看護師や医療事務など、様々な雇用形態を取っている医院・クリニックとしては、気になる法改正の1つです。

そこで、今回は改正法の条文や厚生労働省の資料をもとに、パートタイム・有期雇用労働法の改正の具体的な概要についてお伝えします。

※中小企業は「2021年4月1日から」とされているので、大半の医院・クリニックの施行は2021年4月1日となるでしょう。詳細は管轄の都道府県労働局にご確認ください。

【法改正①】不合理な待遇差の禁止

これまで、常勤とパート・有期雇用者の待遇について、次のような待遇差のあった医院・クリニックは多かったのではないでしょうか?

・パートには通勤手当を支給していない
・パートには賞与を支給していない
・常勤とパートで基本給がなぜか違う

しかし、法改正によって、このような不合理な待遇差を付けることが明確に禁止されます。

労使間トラブルになれば圧倒的に不利になる

具体的には、改正法の第8条、9条には次のように定められています。

(不合理な待遇の禁止)
第八条 事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。

(通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者に対する差別的取扱いの禁止)
第九条 事業主は、職務の内容が通常の労働者と同一の短時間・有期雇用労働者(第十一条第一項において「職務内容同一短時間・有期雇用労働者」という。)であって、当該事業所における慣行その他の事情からみて、当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されることが見込まれるもの(次条及び同項において「通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者」という。)については、短時間・有期雇用労働者であることを理由として、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、差別的取扱いをしてはならない。

改正法第8、9条

これにより、職務内容(業務内容や責任の程度)による不合理な待遇差や、差別的取扱いは明確に禁止されることになります。

具体的に、基本給や賞与の他、各種手当、福利厚生、教育訓練など、待遇による差を付けることを禁じています。

もし、違反した場合はパートタイマーのスタッフから訴えられたり、裁判に発展するトラブルが起きることが考えられます。

もちろん、法的に違反していますから、不利になるのはクリニック側となります。

同一労働同一賃金ガイドラインの概要

待遇差が存在する場合の不合理の有無を明確にするため、ガイドライン(指針)を策定しています。(改正法第15条)

第十五条 厚生労働大臣は、第六条から前条までに定める措置その他の第三条第一項の事業主が講ずべき雇用管理の改善等に関する措置等に関し、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(以下この節において「指針」という。)を定めるものとする。

改正法第15条(指針)

これが、同一労働同一賃金ガイドラインです。

同一労働同一賃金ガイドラインについては、次のポイントを押さえておく必要があります。

基本給

労働者の「①能力または経験に応じて」「②業績または成果に応じて」「③勤続年数に応じて」支給する場合は、①、②、③に応じた部分について、同一であれば同一の支給を求め、一定の違いがあった場合には、その相違に応じた支給を求めています。

つまり、①、②、③による基本給の違いはあっても、常勤の正職員とパート・有期雇用者という区分けで待遇差を付けることはできなくなります。

賞与

ボーナス(賞与)であって、会社の業績等への労働者の貢献に応じて支給するものについては、同一の貢献には同一の、違いがあれば違いに応じた支給を行わなければなりません。

つまり、「パートは貢献度が評価できないから、賞与を与えない」などとすることはできなくなります。

各種手当

役職手当であって、役職の内容に対して支給するものについては、同一の内容の役職には同一の、違いがあれば違いに応じた支給を行わなければいけません。

そのほか、例えば次の手当についても、常勤の正職員とパート・有期雇用者では同一の支給を行わければいけません。

  1. 業務の危険度又は作業環境に応じて支給される特殊作業手当
  2. 交替制勤務などに応じて支給される特殊勤務手当
  3. 業務の内容が同一の場合の精皆勤手当
  4. 所定労働時間を超えて同一の時間外労働を行った場合に支給される時間外労働手当の割増率
  5. 深夜・休日労働を行った場合に支給される深夜・休日労働手当の割増率
  6. 通勤手当
  7. 出張旅費
  8. 労働時間の途中に食事のための休憩時間がある際の食事手当
  9. 同一の支給要件を満たす場合の単身赴任手当
  10. 特定の地域で働く労働者に対する補償として支給する地域手当

なお、家族手当や住宅手当についてはガイドラインには示されていませんが、改正法第8条、9条の対象になっており、クリニックの事情に応じて議論することが望まれるとされています。

福利厚生・教育訓練

  1. 食堂、休憩室、更衣室といった福利厚生施設の利用、転勤の有無等の要件が同一の場合の転勤者用社宅、慶弔休暇、健康診断に伴う勤務免除・有給保障については、同一の利用・付与を行わなければなりません。
  2. 病気休職については、無期雇用の短時間労働者には常勤の正職員と同一の、有期雇用労働者にも労働契約が終了するまでの期間を踏まえて同一の付与を行う必要があります。
  3. 法定外の有給休暇その他の休暇であって、勤続期間に応じて認めているものについては、同一の勤続期間であれば同一の付与を行わなければいけません。特に有期労働契約を更新している場合には、当初の契約期間から通算して勤続期間を評価することを要します。
  4. 教育訓練であって、現在の職務に必要な技能・知識を習得するために実施するものについては、同一の職務内容であれば同一、違いがあれば違いに応じた実施を行う必要があります。

なお、パートタイマーの有給休暇については、詳しくは以下の記事に詳しく書いたように、有給休暇を与えないことは基本的に認められません。

【関連記事】クリニックで働くパートのスタッフに有給休暇を与えないとだめ?

不合理な待遇差の解消の留意点

  1. 正職員の待遇を不利益に変更する場合は、原則として労使の合意が必要になります。就業規則の変更により合意なく不利益に変更する場合であっても、その変更は合理的なものである必要があります。ただし、正職員とパート・有期雇用者との間の不合理な待遇差を解消するに当たり、基本的に、労使の合意なく正職員の待遇を引き下げることは望ましい対応とは言えません。
  2. 雇用管理区分が複数ある場合(例:医療法人の分院など)であっても、すべての雇用管理区分に属する常勤の正職員との間で不合理な待遇差の解消が求められます。
  3. 正職員とパート・有期雇用者との間で職務の内容等を分離した場合であっても、正職員との間の不合理な待遇差の解消が求められます。

常勤とパートで賃金の決定基準・ルールの相違がある場合

正職員とパート・有期雇用労働者との間で賃金の決定基準・ルールの違いがあるときは、「正社員とパートタイム労働者・有期雇用労働者は将来の役割期待が異なるため、賃金の決定基準・ルールが異なる」という主観的・抽象的説明は成り立ちません。

賃金の決定基準・ルールの相違は、職務内容、職務内容・配置の変更範囲、その他の事情の客観的・具体的な実態に照らして、不合理なものにならないようにする必要があります。

定年後に継続雇用された有期雇用労働者の取扱い

定年後に継続雇用された有期雇用労働者についても、パートタイム・有期雇用労働法が適用されます。

有期雇用労働者が定年後に継続雇用された者であることは、待遇差が不合理であるか否かの判断に当たり、その他の事情として考慮されます。

様々な事情が総合的に考慮されて、待遇差が不合理であるか否かが判断されます。

【法改正②】労働者に対する待遇に関する説明義務の強化

パート・有期雇用契約者は、常勤の正職員との待遇差の内容や理由などについて、クリニック側に説明を求めることができます。

また、クリニック側は、説明を求めた労働者に対して不利益な取扱いをすることが禁じられます。(改正法第14条)

第十四条 事業主は、短時間・有期雇用労働者を雇い入れたときは、速やかに、第八条から前条までの規定により措置を講ずべきこととされている事項(労働基準法第十五条第一項に規定する厚生労働省令で定める事項及び特定事項を除く。)に関し講ずることとしている措置の内容について、当該短時間・有期雇用労働者に説明しなければならない。

2 事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者から求めがあったときは、当該短時間・有期雇用労働者と通常の労働者との間の待遇の相違の内容及び理由並びに第六条から前条までの規定により措置を講ずべきこととされている事項に関する決定をするに当たって考慮した事項について、当該短時間・有期雇用労働者に説明しなければならない。

3 事業主は、短時間・有期雇用労働者が前項の求めをしたことを理由として、当該短時間・有期雇用労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

(事業主が講ずる措置の内容等の説明)

なお、法改正に関係なく、パート・有期雇用契約者を採用する際は、必ず以下のことを労働条件通知書などの書面に明記して説明しなければいけません。

①昇給の有無
②賞与の有無
③退職手当の有無
④雇用管理の改善等に関する事項に係る相談窓口

【法改正③】行政による事業主への助言・指導等や裁判外紛争解決手続(行政ADR)の整備

行政ADRとは、事業主と労働者との間の紛争に対して裁判をせずに解決する手続きのことです。

行政による助言・指導などや行政ADRの規定を整備し(改正法第18条)、都道府県労働局において、無料・非公開の紛争解決手続きを行います。

第十八条 厚生労働大臣は、短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等を図るため必要があると認めるときは、短時間・有期雇用労働者を雇用する事業主に対して、報告を求め、又は助言、指導若しくは勧告をすることができる。
2 厚生労働大臣は、第六条第一項、第九条、第十一条第一項、第十二条から第十四条まで及び第十六条の規定に違反している事業主に対し、前項の規定による勧告をした場合において、その勧告を受けた者がこれに従わなかったときは、その旨を公表することができる。
3 前二項に定める厚生労働大臣の権限は、厚生労働省令で定めるところにより、その一部を都道府県労働局長に委任することができる。

(報告の徴収並びに助言、指導及び勧告等)

「均衡待遇」や「待遇差の内容・理由」に関する説明についても、行政ADRの対象となります。(改正法第24~26条)

第二十四条 都道府県労働局長は、前条に規定する紛争に関し、当該紛争の当事者の双方又は一方からその解決につき援助を求められた場合には、当該紛争の当事者に対し、必要な助言、指導又は勧告をすることができる。
2 事業主は、短時間・有期雇用労働者が前項の援助を求めたことを理由として、当該短時間・有期雇用労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

(紛争の解決の援助)

第二十五条 都道府県労働局長は、第二十三条に規定する紛争について、当該紛争の当事者の双方又は一方から調停の申請があった場合において当該紛争の解決のために必要があると認めるときは、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律第六条第一項の紛争調整委員会に調停を行わせるものとする。
2 前条第二項の規定は、短時間・有期雇用労働者が前項の申請をした場合について準用する。

(調停の委任)

第二十六条 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(昭和四十七年法律第百十三号)第十九条、第二十条第一項及び第二十一条から第二十六条までの規定は、前条第一項の調停の手続について準用する。この場合において、同法第十九条第一項中「前条第一項」とあるのは「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律第二十五条第一項」と、同法第二十条第一項中「関係当事者」とあるのは「関係当事者又は関係当事者と同一の事業所に雇用される労働者その他の参考人」と、同法第二十五条第一項中「第十八条第一項」とあるのは「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律第二十五条第一項」と読み替えるものとする。

(調停)

キャリアアップ助成金

パートや有期雇用契約者といった非正規雇用労働者の正社員化や処遇改善の取組を実施した場合、キャリアアップ助成金の支給を行っています。

パートタイム・有期雇用労働法の改正に伴う処遇改善を行った場合も助成金の対象になることもあり得るので、確認しておきましょう。

※2019年4月1日現在。< >は生産性の向上が認められる場合の額。
  支給条件 助成金額
正社員化コース 有期契約労働者等を正規雇用労働者等に転換または直接雇用 有期→正規:57万円/人<72万円>
有期→無期:28.5万円/人<36万円>
無期→正規:28.5万円/人<36万円>
※支給上限20名
賃金規定等改定コース すべての有期契約労働者等の賃金規定等を2%以上増額改定 1~3人:9.5万円/事業所<12万円>
4~6人:19万円/事業所<24万円>
7~10人:28.5万円/事業所<36万円>
11~100人:2.85万円/1人<3.6万円>
※支給上限100名
※申請回数は年1回のみ
一部の賃金規定等を2%以上増額改定 1~3人:4.75万円/事業所<6万円>
4~6人:9.5万円/事業所<12万円>
7~10人:14.25万円/事業所<18万円>
11~100人:1.425万円/人<1.8万円>
※支給上限100名
※申請回数は年1回のみ
健康診断制度コース 有期契約労働者等を対象とする「法定外の健康診断制度」を新たに規定し、延べ4人以上実施 38万円/事業所<48万円>
※1事業所1回のみ
賃金規定等共通化コース 有期契約労働者等に関して正規雇用労働者と共通の職務等に応じた賃金規定等を新たに作成して適用 57万円/事業所<72万円>
共通化した対象労働者(2人目以降)について、助成額2万円を加算
※1事業所1回のみ
※支給上限20名
諸手当制度共通化コース 有期契約労働者等に関して正規雇用労働者と共通の諸手当制度を新たに設け、適用 38万円/事業所<48万円>
共通化した対象労働者(2人目以降)について、助成額1.5万円<1.8万円>を加算
同時に共通化した諸手当(2つ目以降)について、助成額16万円<19.2万円>を加算
※1事業所1回のみ
※支給上限20名、10手当
選択的適用拡大導入時処遇改善コース 労使合意に基づく社会保険の適用拡大の措置により、有期契約労働者等を新たに被保険者とし、基本
給を増額
基本給の増額割合に応じて、
3~5%:2.9万円/人<3.6万円>
5~7%:4.7万円/人<6万円>
7~10%:6.6万円/人<8.3万円>
10~14%:9.4万円/人<11.9万円>
14%~:13.2万円/人<16.6万円>
※1事業所1回のみ
※支給上限45名
短時間労働者労働時間延長コース 短時間労働者の週所定労働時間を5時間以上延長し新たに社会保険に適用 22.5万円/人<28.4万円>
※支給上限45名
労働者の手取り収入が減少しないように週所定労働時間を延長し、新たに社会保険に適用させることに加えて、賃金規定等改定コースまたは選択的適用拡大導入時処遇改善コースを実施 1~2時間:4.5万円/人<5.7万円>
2~3時間:9万円/人<11.4万円>
3~4時間:13.5万円/人<17万円>
4~5時間:18万円/人<22.7万円>
※支給上限45名

【まとめ】常勤とパートに待遇差がある場合は早めの対応を

以上、パートターム・有期雇用労働法の改正の3つのポイントについてお伝えしました。

中小企業規模の医院・クリニックにおいては1年間の猶予期間が与えられており、施行は2021年4月1日からとなっています。

しかし、就業規則や賃金規定の見直しが必要となり、労使間の話し合いを行うなど、対応に時間がかかると思われます。

早めに対応し、常勤とパートの間で不公平感のない待遇に改善していきましょう。

笠浪 真

1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢52人(令和3年10月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。

医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。

医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。

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